キラとニクラの大冒険 (23)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/11 10:26:38
ニクラはキラに言った。
やっぱりぼくはここに残るよ。ぱっぱっぷすをひとりで置いて行けない。きっとぱっぱっぷすは死ぬつもりだよ。
キラも言った。
うん、わたしも残るわ。私もぱっぱっぷすとぱっぱっぷすのお家を守る。
ふたりが、お礼を言おうとしたら、いつのまにか緑のちいさな精霊はいなくなっていた。
ニクラとキラは家の中に戻ると、ぱっぱっぷすは思いつめた顔で鉄のモリを研いでいた。
キラがぱっぱっぷすに言った。
ぱっぱっぷす、わたしたちもここに残るわ。あなたひとりでは危ないもの。
すると、ぱっぱっぷすは低い声でボソボソと言った。
ダメだ。おまえらはすぐに行け。
ニクラが言った。
ぱっぱっぷす、ぼくらもこの家を守るのを手伝うよ。
きみひとりより、、
ニクラがそこまで言ったときに、ぱっぱっぷすはうつむいてモリを研いだまま大声で言った。
いいから、おまえら出ていけ!おれのことはほっとけ!じゃまなんだ!!
ニクラとキラはびっくりした。
ぱっぱっぷすは立ち上がり、ふたりの肩をぐいぐい押して、家から追い出した。
ニクラとキラは仕方なくぱっぱっぷすの家から出た。
ぱっぱっぷすはふたりを見ないですぐにまたモリを研ぎ始めた。
ふたりはバルバルの木からおりた。
夜になり、あたりが真っ暗になった。
満月の明かりに照らされて木々の濃い緑がテラテラと光り、かすかに小鳥たちの鳴き声が聞こえていた。
ぱっぱっぷすは7本の鉄モリを鋭く研ぎ終えて、家を覆う黒い布をはがして床下にしまい、戦いに備えた。
やがて、バキバキと木の折れる音が聞こえてきた。音はどんどん近づいて来る。
ぶろおぉぉぉぉ、ぶるるるるるる、ふしゅー、ふしゅぅううううう!!
暗闇から奇妙な鼻息が聞こえてくる。
黒い魔物は、ぱっぱっぷすの家のすぐ近くまで来ていた。
魔物は、バルバルの木の上に建っているぱっぱっぷすの家よりも巨大だった。
辺りにものすごい獣臭が漂う。
黒い魔物はぱっぱっぷすの匂いを探しているのだ。
ぱっぱっぷすは背中に7本のモリをモリ筒に入れて背負うと、屋根の上に登り、真正面から黒い魔物に対自した。
黒い魔物は満月に照らされて、そのすがたがはっきりと見えていた。
ぱっぱっぷすは、ヤリを打ち込む急所を探そうと、まずはじっと魔物を観察した。大きな生き物を狩るときのいつものやり方だった。
そのとんでもなく巨大な身体は全身を長くて黒い毛でびっしりとおおわれていて、バルバルの木のように太い二本の足で立っていた。足と足の間にはうねうねと蛇のように動くしっぽが生えていた。腕は一本しか無くて胸の真ん中から生えていた。
腕のしたには腹があり、よく見ると真ん中に灰色のへそのような突起が黒い毛の下に隠れているのが見えた。
頭は大きくて首が無く、顔のほとんどが口だった。口を開けていないと呼吸ができないようで、開けっ放しの口の中には、ずらりと鋭い歯が何列にも並び、口からおびただしい量のよだれがダラダラと垂れ流されていた。目は小さくて黒い毛に隠れているのか、どこにあるのかわからなかった。
魔物がぱっぱっぷすの姿を見つけるより早く、ぱっぱっぷすが動いた。
ぱっぱっぷすは渾身の力を込めて、灰色のへそを狙ってモリを放った。
モリはわずかにそれて、灰色のへそのすぐ横の腹にぶつりと突き刺さった。
魔物は凄まじい咆哮をあげて身悶えた。自分の身に何が起こったのか、一瞬わからなかったようだが、屋根の上のぱっぱっぷすを見つけて、ダラダラとよだれを垂れ流しながら、もう一度咆哮をあげた。
ぱっぱっぷすに向けられた巨大な口から出た咆哮は強烈な熱風で、頑丈な足腰のぱっぱっぷすでも屋根の上でよろめくほどだった。
それに、凄まじい臭気だった。
ぱっぱっぷすは態勢を立て直して、魔物に向かって叫んだ。
おい!おめえ、よくもおれのとうちゃんとかあちゃんを喰ってくれたな!!!
ぱっぱっぷすはもう一度、灰色のへそを狙ってモリを放った。
今度は灰色のへその反対側の腹に突き刺さった。
魔物は大きな叫び声をあげながら、腕やしっぽをめったやたらに振り回して、暴れた。
そのうちのひとつの強烈な一撃が、ぱっぱっぷすの家の壁に当たった。
家はいくつもの太い木の柱が折れて、メキメキと音を立てながら傾いた。
屋根の上にいたぱっぱっぷすは屋根から転がり落ちて、地面に叩きつけられた。
ぱっぱっぷすは地面に身体を強く打って、うぅっ!と、うめいた。
その瞬間、どこからかすごい速さでニクラが飛び出して来た。
ニクラとキラは、ぱっぱっぷすに追い出されると、ぱっぱっぷすの家のすぐ近くの木の陰に隠れることにした。
念のため、ポルコは家から少し離れた場所にはなして、土と魚の干物をなすりつけた。
ニクラは外套の内ポケットにあめしらずを入れて、セイゲンさんが持たせてくれたモリを持ち、ナタを腰に差した。
キラは、小さなバックパックに薬や包帯を入れて、ナイフを腰に差した。
ふたりはお互いの身体に魚の干物をなすりつけて、人間の匂いを消した。
ニクラとキラはぱっぱっぷすが家の外に出たら、すきを見て、ぱっぱっぷすを助けて、彼を無理やりにでも馬車に乗せて逃げるつもりだったのだ。
でも、じっさいに黒い魔物があらわれてぱっぱっぷすが屋根の上に上がったとき、魔物のあまりに巨大で恐ろしい迫力にふたりは足がすくんで、動くことができなかった。
しかし、ぱっぱっぷすが屋根から落ちたとき、ニクラの身体はとっさに動いていた。
ニクラはぱっぱっぷすに駆け寄ると、ぱっぱっぷすに肩を組んで身体を起こしてやった。
ぱっぱっぷすは痛みにうめき声を出した。
肩の骨が折れたようで、左腕はぶらりと垂れ下がっていて、頭からは血が出ていた。
お、、おまえ、なんでいるんだ?!
ぱっぱっぷす、逃げよう!!
ニクラはぱっぱっぷすを馬車の方へ連れて行こうとした。
でも、ぱっぱっぷすはとても興奮していて、それを拒んで言った。
おれは行かねえ。こいつを殺すんだ。じゃますんな!!
ぱっぱっぷすはすごい力でニクラを突き飛ばすと、走って背中から外れて地面に落ちたモリを取りに行った。
ぱっぱっぷすはモリを掴むと、グルグルとうめき声をあげながら、まだ家をめちゃくちゃに攻撃している魔物目がけてモリを放った。
しかし、ぱっぱっぷすはケガのせいでよろめいて、モリは大きく外れて森の方へ飛んで行った。
ぱっぱっぷす!もう無理だ!逃げよう!
ニクラは叫んだ。
しかし、ぱっぱっぷすは聞く耳を持たず、すぐに次のモリを放とうと、構えている。
魔物は、家にはもうぱっぱっぷすがいないことにやっと気がついて、家を壊すのをやめた。
しかし、すでにぱっぱっぷすの家は跡形もなくこなごなに壊されていた。
魔物は腹の痛みと怒りのためか、びゃーーあぁあぁ、びゃーーあぁぁぁぁああああ、、、、と奇妙な音で荒い呼吸をしながら、ぱっぱっぷすを探してウロウロしていた。
ぱっぱっぷすは大きな声で叫んだ。
おい!おれはこっちだ!このやろう!!!