Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (21)

ウサギが焼けるのを待っているあいだ、ぱっぱっぷすは町のことを聞きたがった。

ニクラは町の酒場のこと(ニクラは酔いつぶれた叔父をたまに迎えにいかなくてはならなかったから、酒場のことはよく知っていた。)、船工場のこと、職人たちのこと、セイゲンさんのことを話してあげた。

キラは学校のこと、町の政治のこと(キラの父親が政治にも関わっているので、キラも少しだけ政治のことを知っていた。)、あとはレストランのことなんかを話してあげた。

ぱっぱっぷすは、ウイスキーってなんだ?とか、オカネってなんだ?なんてことを聞きながら、ときどきくるりと鉄串をまわしてウサギの向きを変えた。
ウサギの肉は少しづつ黄金色に焼けてきて、うまそうな匂いがしてきた。
ときおり、ウサギの肉から油が落ちて、パチッと音を立てて小さく炎が爆ぜた。

今度はニクラとキラがぱっぱっぷすのことを聞いた。

ぱっぱっぷすは今何歳なの?
ぱっぱっぷすのお父さんとお母さんはもともとどこから来たの?
ぱっぱっぷすたちの他にも森に住んでる人たちはいるの?
なんてことを聞いた。

ぱっぱっぷすの話はこうだった。

ぱっぱっぷすのおじいちゃんとおばあちゃんの代にはもっとたくさんの家族がこの森に暮していた。
ずっと昔、ぱっぱっぷすの部族はおじいちゃんのそのまたおじいちゃんの代に、ここから北にある森の中で暮らしていた。そのころ、国と国の大きな争いがあり、森も戦場になったから、逃げてきたのだった。暮らしやすい森を求めて、部族は南へ向かって長い旅をした。そうしてたどり着いたこの森に部落を作って暮らすようになったらしい。
この森から少し離れた場所に町があるのは知っていたけど、肌や身体の形が違う人々を恐れたのか、彼らは魔物だから近づいてはいけないし、彼らに気がつかれてもいけないと、森に隠れながら暮らしていた。
ぱっぱっぷすもそう言われていたから、町があるのは知っていたけど、行ったことはなかった。

森では代々、魔物や邪悪な生き物から身を守るためにバルバルという地面から手首が出てきたような形をした大きな木の上に家を作るのが風習だった。
狩りで主な食べ物を獲って、木の実や、山菜などの植物も食べた。
しかし、10年ほど前から、黒い魔物が部落を襲って人々を食べるようになって、今ではぱっぱっぷす一人になってしまったのだ。
ぱっぱっぷすの両親が魔物に食べられたときは、日中だったけど、ぱっぱっぷすは家にいなかったし、その他の時は全部、夜に襲いに来ていて、混乱の中で暗くてよく見えないので、黒くて凶暴で、鋭く大きな爪を持ち、凄まじい咆哮を上げる大きな生き物としかわかっていなかった。

ぱっぱっぷすは自分の年齢を知らなかった。でも、たぶんおまえらと同じくらい生きてると思うと言ったけど、ニクラとキラは、なんでこどもなのにヒゲが生えてるのか、不思議だった。

このあたりまで話したとき、

さあ、焼けたぞ!

と、言って、ぱっぱっぷすはいろりから鉄串を降ろした。
大きくて分厚い緑の葉っぱの上に焼きあがったウサギをひとり一匹づつのせて、ほら、食え。と言いながら渡してくれた。
ぱっぱっぷすはすぐに自分のウサギを手づかみでつかんで、かぶりついた。
あちぃ、あちぃ、と言いながら、どんどん食べていく。その食べる速さにふたりが驚いて見てると、

なんだ?おまえら、ウサギは嫌いか?食わないなら、おれが食うぞ。

と、せっかちに言ってきた。

ニクラとキラは、せっかくぱっぱっぷすが作ってくれたのに、食べないのは、ぱっぱっぷすに悪いと思って、いただきます。と言いながら、ウサギをつかんだ。
ところが、ウサギはとても熱くて、とても素手では持てないので、お皿になってる葉っぱでくるんで持つと、熱くなかった。

食べてみると、肉はとても柔らかく美味しいジュースがたくさん口の中にあふれた。

ニクラもキラも、口をそろえて言った。

美味しい!!

ぱっぱっぷすは満足そうに言った。

そうだろう?とうちゃんが発明したタレが塗ってあるんだぜ。今まではただ焼いてただけだけど、とうちゃんがタレを作ってからは、もっとうまく食えるようになったんだ。こんなうまいもん、食ったことねえだろう?

ぱっぱっぷすは嬉しそうだった。

キラは言った。

うん、はじめて食べたわ!とっても美味しいソースね!

ぱっぱっぷすは言った。

ソースってなんだ?タレのことか?おまえらはなんだかへんな言葉をたくさん使うなぁ。
おもしれぇな!

ふたりはあんまり美味しいので、結局ひとり一匹づつぜんぶ平らげてしまった。もうおなかはぱんぱんになって、笑った。

そのあと、しばらく3人でおしゃべりしていると、いつのまにか辺りは夕暮れになっていた。

ぱっぱっぷすは、突然あせって立ち上がり、ふたりに言った。

おれ、楽しくってすっかり忘れてた!おまえら、手伝ってくれるか?

そういいながら、ぱっぱっぷすは床下から折りたたまれた黒い布を取り出した。
それをニクラとキラが手伝いながら広げると、かなり大きくて分厚く頑丈な布だった。
それに、布はなんだか生き物が腐ったような奇妙な匂いがした。
ぱっぱっぷすは部屋の壁に掛かっている木のはしごを登って屋根の上にあがった。

おうぃ、布を渡してくれ!

ニクラは布のはしを持ってはしごを登って、ぱっぱっぷすに渡した。
ぱっぱっぷすは布のはしを受け取ると、そのまま屋根の反対側に行くと、ニクラに布を屋根のもう一方まで伸ばすように言った。
キラは、家から地面に降りて、ぱっぱっぷすとニクラに、もっと右、とか、上とか教えてあげた。
3人で協力して、黒い布で家ぜんぶを覆うことができた。

ぱっぱっぷすは、ふたりに言った。

へへっ、3人でやったら、いつもよりもずっと早くできたよ!
ありがとう!!

キラはぱっぱっぷすに聞いた。

ねえ、なんのために布をかぶせたの?

ぱっぱっぷすは答えた。

うん、これはじいちゃんたちや他の家族たちがどんどん黒い魔物に喰われちゃったときに、とうちゃんが家を守るために考えたんだ。黒い魔物はすごく目が悪くて、ほとんど匂いだけで、人や生き物を襲うんだ。
だから、夜になる前にこの布をかけておくと、黒い魔物に見つからないんだ。布には魚の匂いがなすりつけてあって、黒い魔物は水に住む生き物を食べないし、それに魚の匂いのせいで人間に気がつかなくなるんだ。

ぱっぱっぷすは話を続けた。

でも、とうちゃんとかあちゃんが襲われたときだけなぜだか朝に来たんだ。なんでかわかんねぇけどよぅ。。
その日の朝早く、書き物の鳥の羽が無くなったから、おれはとうちゃんに言われて、ひとりで西のほうに集めに行ってたんだ。西のほうは鳥の巣が多いからな。そしたら、見たこともない白くて頭のでかい生き物たちが、たくさん走ってきてよぅ、みんな大あわてで逃げてるんだ。そしたら、少し離れたところから黒い魔物のすごく大きな叫び声が聞こえてきたんだ。白い生き物たちはみんなおれの家の方に逃げていったんだ。
おれは怖くなって、木の上に登って、隠れたんだ。
黒い魔物は白い生き物たちを追いかけておれの家のほうに行ってるみたいで、バキバキ木を折りながら進んでいく音が聞こえたよ。
おれはしばらく隠れてたけど、とうちゃんとかあちゃんが心配になって、自分の家に走って戻ったんだ。
そしたら、もう黒い魔物はいなくなってて、屋根に穴があいてて、とうちゃんとかあちゃんは喰われた後だったんだ。

アバター
2023/10/09 11:00
ルルルのルさん、

楽しみにしてくれて、嬉しいです!!
ありがとうございます!

モモって知ってたけど、読んだことなかったです。
今、ちょっと見てみたら、とっても面白そうですね〜。
ドイツの作家なんだ。
ドイツの童話、好きなものが多いから、気が向いたら読んでみます(^-^)
アバター
2023/10/09 10:58
haticoさん、

ありがとうございます!

はい、haticoさんの予想の一つは当たってるかも?
また、気が向いたら続きを読んでください〜(^-^)

なるほど。
言われて気づいたけど、確かに、ものを書く時、特に空想だけで書く時は自分の経験と実体験が素材となることも多いのでしょうね。
もちろん、それそのものではなくても、その経験をもとに生まれる発想というのがあるのでしょうね、きっと。
確かにおっしゃる通り、おれは結構いろんな物事に興味を持ってるかも。
自然や文化とかね。

いつも読んでいただいて、ありがとうございます!
アバター
2023/10/09 09:18
いつも続きが楽しみです^^

モモの世界とも、通じるものがありそうなかんじがしてわくわくします
アバター
2023/10/09 06:57
ぱっぱっぷすの一族は自然のことを良く知っているから
イランへと続く情報が出てきそうですね!
それとも旅に一緒に行くことになるのか?
この先も楽しみです

日本でもない、アメリカでもない、現代でもない、
架空の世界のことを、まるで本当に存在してるかの
ように物語として書くのは、たくさんのことを知らないと
できないことですよね

いろんなところへ旅をしたり、作品を見たり聞いたり
しているケニーさんだから書けるんですよね
世界観の作り方が素晴らしいなあって思ってます

私も絵を描いたりするので、もっといろんなことを
興味を持って見たりして感性を鍛えなくちゃ
アバター
2023/10/09 01:44
ロワゾーさん、

なんと!
ムーミンを引き合いに出してくれるなんて、とっても光栄です(涙)
トーベ・ヤンソンの大ファンなので!

はい、ぱっぱっぷすの一族は、ニクラやキラの人種とは違い、もっと土着している呪術や精霊信仰が盛んな一族なんです。
ただ、ぱっぱっぷすの一族はもともとニクラやキラの人種も魔物のような存在だと考えていた(戦争などをする人種なので)ので、彼らがニクラやキラの人種と関わったのは、ぱっぱっぷすが一族の歴史で初めてなんです。
ぱっぱっぷすの人懐っこくて好奇心豊かな性格とニクラとキラの人柄だから友達になれたんですね(^-^)

魔物はめっちゃ怖いので、お気をつけください。。
アバター
2023/10/09 00:02
食べ物が美味しそうなのよいな
キラもニクラもぱっぱっぷすも、とても生きている感覚がする

ムーミンのように個体名と種族名が合一されている言語とカルチャーの種族なんだろうか

貨幣経済はなさそう 部外者に寛容 不幸な接触による被侵略の歴史はなさそう

魔物とはなんぞや

などなど、読みながらきらきらしています



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.