キラとニクラの大冒険 (20)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/10/08 21:56:18
ニクラが答えた。
うん、馬という生き物で、名前がポルコっていうんだ。
うーん、よくわかんねえけど、まあいいや。おまえたちの産まれた町には他にもおれとおなじ生き物がたくさん住んでるのか?行きてえなぁ。連れてってくれるか?
ニクラは答えた。
もちろん、いいよ!でも、今はぼくたち海へ行くんだ。だから、帰り道でもいいかな?
ぱっぱっぷすは嬉しそうに、うんうんとうなずきながら言った。
やったやった!!すっごくうれしい!おれもいっぱいおれと同じ生き物がいるその町で暮してみてえなぁ!
ニクラとキラは顔を見合わせて、同じことを思った。
きっとぱっぱっぷすはニクラのように町の大人たちに受け入れてもらえない。
でも、キラは言った。
うん、わたしたちはこどもだから、ぱっぱっぷすが町で暮してもいいかを決めることができないわ。でも、一緒に行ってみましょう!
そこまで話してキラは思いついてニクラに言った。
そうだわ、ニクラ!
もしかしたら、船工場で働いて、セイゲンさんの家に住まわせてもらえるかも!
キラもニクラも、ぱっぱっぷすと会ってまだ間もないのに、すぐに彼のことが気に入っていた。
ぱっぱっぷすが言った。
なんだ?そのフネコウバとかセイゲンサンっていうのは?
キラが笑いながら答えた。
船工場は、船っていう水の上を走る乗り物をつくるところで、セイゲンさんは、そこで昔働いていた職人さんよ。
ニクラも言った。
うん、セイゲンさんや工場のみんなならきっとぱっぱっぷすを受け入れてくれるよ!
ぱっぱっぷすが言った。
そうなのか?よくわからないけど、おまえらめし食うか?おれの家に来い。昨日の朝、うまそうなやつをつかまえたんだ。まだ食ってないで残ってる。
ニクラは答えた。
嬉しいんだけど、ぼくたち、さっきお昼ごはんを食べたんだ。
すると、ぱっぱっぷすはすごくさみしそうな顔をして、言った。
そうか、すごくうまいんだけどなぁ。。
その様子を見て、ニクラは言った。
うん、じゃあ、少しだけ食べるよ。ありがとう、ぱっぱっぷす。
すると、ぱっぱっぷすは顔を輝かせて言った。
そうか!じゃあ、おまえらついて来い!
そうゆうとぱっぱっぷすはさっさと森の奥に歩きはじめた。
あんまりさっさと行ってしまうので、ニクラとキラはあわてて馬車からおりて、ポルコも連れて行こうとハーネスを外した。
ぱっぱっぷすは、どんどん歩きながら、たまにこちらを振り向いて立ち止まって待ってくれた。
ふたりがぱっぱっぷすに近づいて行くと、またぱっぱっぷすはさっさと1人で歩いていく。
そうやってしばらく歩いていくと、どっしりとした手が地面から突き出して空を掴もうとしてるような変わった形の太く大きな木の上に丸太で出来た家が見えた。
ニクラもキラが想像してた家よりずっと立派で強い作りの家だった。
ニクラは驚いて言った。
ぱっぱっぷすのおとうさんは大工さんだったのかい?
すると、ぱっぱっぷすは言った。
ダイクサンってなんだ?
とうちゃんは、なんでもできたんだ。狩りの名人だったし、家を作るのだってうまかった。それに木や花や草のこと、虫のことだって、何だって知ってた。とうちゃんは色んなことを教えてくれた。
だから、おれはとうちゃんみたいになりたいんだ。
ぱっぱっぷすはそう言いながら、家に続く縄はしごをすいすいと登った。
ニクラとキラも登って家に入った。家を内側から見ると、丸太が複雑に組み合わされた見事な家だった。ところが、木の下からは見えなかったが、屋根の一部に大きな穴があき、壁の一部は巨大な爪で引っ掻いたように無残に壊されていた。ぱっぱっぷすはそれを見ながら、言った。
黒い魔物にやられたんだ。やつは家まで来てとうちゃんとかあちゃんを襲ったんだ。おれはとうちゃんに言われて、朝から鳥の羽を集めに行ってたんだ。
帰ったらもう家は壊されて、とうちゃんは手首だけになってたし、かあちゃんは何にも残って無かった。全部、喰われちまったんだ。
そのときに村のみんなも全員食われちまったよ。
ニクラもキラもあまりのことに言う言葉が見つからなくて、黙って聞いていた。
でも、この家だとあいつにまた壊されるから、おれはもっと強い家を作るんだ。もっと強い家に住めばあいつはおれを襲えない。かわりにおれがあいつの寝床を見つけて、襲いにいくんだ。とうちゃんとかあちゃんを喰われたから、おれはあいつを喰ってやるんだ。
それより、おまえら、これ見ろよ。うまそうだろぅ?
そう言うとぱっぱっぷすは袋からウサギを取り出して見せた。
キラは小さいころ家でウサギを飼っていたので、ウサギを食べるなんて驚いたけど、それを顔に出すとぱっぱっぷすが気を悪くするかもしれないと思って、平静を装った。
ぱっぱっぷすは嬉しそうに袋からどんどんウサギを取り出した。
おまえら、ひとり一匹で足りるか?
と、言いながら、さっそくウサギの皮を剥ぎ始めている。
ニクラもキラもあわてて言った。
いや、さっき食べたばかりだから、そんなにたくさんいらないよ。
うん、わたしたちはほんとに少しでいいの、ぱっぱっぷす。
しかし、ぱっぱっぷすは、笑いながらどんどんウサギを捌いていく。ニクラとキラが冗談を言ってると思ってるらしい。
きっと彼にとっては、ひとりで一匹食べるなんて当然のことなんだろう。
彼は、全部のウサギの皮をはぎ終えると耳をつかんで、ふたりに見せた。
へへへ、どうだ?うまそうだろう?
ニクラもキラも、血だらけで筋肉がむき出しになったあまりに生々しいウサギにひるんだけど、できるだけ笑顔で言った。
うん、おいしそうだね!
ぱっぱっぷすはその後、ウサギのお腹の中を全部出して、ウサギの身体を裏返しにした。そのウサギを壺にどぶんとつけると、ウサギの肉はテラテラとニスを塗ったように光った。それから、使い込んで動物の油でてらりと光る長い鉄の串を持ってきて、自慢げにニクラとキラに言った。
これもとうちゃんが作ったんだ。すげえだろぅ?おれは鉄を作るのはまだ練習中だ。
そう言いながら、串に3匹のウサギをつぎつぎに刺してぶら下げていった。
部屋の真ん中の床には穴が空いて、中には砂と木炭がしいてあった。
どうやらそれがこの家のいろりらしい。
ぱっぱっぷすは変わった形の木片と、木の棒を持ってきて、木片に棒を突き立ててすごい早さでこすり始めた。途中で木くずを入れると煙が立ち、あっという間に火がついた。
木炭に火をうつすと、ウサギを吊るした鉄串をいろりの上にぶら下がっているいくつかの金具にひっかけた。
これでいい。あと、少し待てば出来るからな。これは焼き方が難しいんだ。火に近すぎると焦げて硬くなるし、遠すぎると生焼けで腹を壊すんだ。