Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (16)

ニクラはあたりに誰もいないのを見ると、縄はしごに走りよって下へするすると降りていった。
すぐにキラもあとにつづく。
下にたどり着いて間近で見ると、機械は上から見ていたよりもはるかに大きく強大な圧迫感があった。
ふたりはすぐに地面に開いた扉へ向かってまっすぐに走った。
地面への入り口を見ると、やはり階段があった。
土を削って作った階段のようで、みすぼらしくて暗かった。
ニクラは中の様子をうかがって、火箱であかりを灯して、慎重に階段を降りていった。
階段は思ったよりずっと長く急勾配で、もし前から白いいきものたちが戻ってきたら、隠れることも、逃げることもできなかった。
ふたりはなるべく音を立てないように、でも素早く降りていった。
しばらく降りると、唐突に階段は終わっていて、目の前がただの壁になっていた。
ニクラはためしに目の前の壁をそっと押してみた。
なにも起こらないので、うしろを振り返ってキラに言った。

いい?もう少し強く押すよ。

キラは薄暗い中でうなずいた。

ニクラは手のひらに力を込めて、ぐっと強く押した。

ぼこっ、と音がして、目の前の壁が開いた。

ゆっくりと開けると、そこには四角い部屋があった。

真っ白でチリひとつ落ちてない完全に清潔な部屋だった。

部屋のなかにはやはり先ほど見た8人のいきものたちがいた。
ニクラとキラは緊張して身構えた。
しかし、8人のいきものたちは円を描くように部屋の中央に向かってならんで、頭を下に向けて目をつむったまま動かなかった。
ふたりが入ってきたことに気づいてないようだった。

8人の円の真ん中には奇妙な形のものがあった。
三角のとんがりぼうしの形をしていて、いきものたちの背よりもう少し小さくて、透明なガラスのようなものでできていた。
透明のとんがりぼうしの中にはとてもたくさんのてんとうむしほどの小さな赤い玉がグルグルと回っていた。
そのスピードはじょじょに速くなり、やがてものすごい勢いで回り、赤い帯模様になっていく。

ふたりはきっとそのとんがりぼうしこそ、この巨大な機械の原動力なんだとわかったけれど、一体どうすればよいのかわからなかった。
でも、叩き壊してしまおうとは思わなかった。

8人のいきものたちは、頭を下に向けて目をつむり、じっと動かないままとんがりぼうしに祈りをささげているか、交信しているように見える。

やがてひとりのいきものがぷるぷるとからだをこきざみに震わせ始めた。
するとまたひとり、またひとりと、その震えが隣のいきものに伝染していくようにみんなつぎつぎに震え始めた。
いきものたちのからだの震えはどんどん大きくなって、左右にぶらんぶらんと振り子のように激しく揺れていた。

やがて、とんがりぼうしが光りだした。
その光はどんどん強くなって、やがて部屋中が真っ白で何も見えなくなるほどになった。

今まで見たこともない強い光のあまりのまぶしさにニクラとキラは部屋を出たかったけど、きっとこれを終わりまで見ていないといけないと思って、部屋を出なかった。

しばらく眩しいのを我慢しているとそれから少しづつ光が弱まって、部屋の中はまたもとの明るさに戻っていた。
見ると、とんがりぼうしの中にあったたくさんの赤い玉がなくなって、からっぽになっていた。

いきものたちの震えも止まり、8人は静かに目を開けた。


ぴんと張り詰めた空気のなか、キラが静かに言った。

邪魔をしてごめんなさい。
あなたたちはここでふうせんばくだんを作っているの?

8人のいきものたちは、ゆっくりとふたりのほうを見た。

キラは彼らが頭の中だけで話ができるのを思い出して、頭の中だけでもう一度同じことを言った。

すると、8人のうちのだれかはわからないけど、ふたりの頭の中に声が聞こえた。
あるいは、8人全員の声だったかもしれない。

そうです。わたしたちはわくせいに引っ越します。そのためにひつようなのです。
どうか、ほうっておいてください。

キラがまた頭の中で言った。

いいえ、いますぐにふうせんばくだんを作るのをやめてください。
土の中に住んでいる精霊たちや生き物たち、森が死んでしまいます。

ニクラはだまって頭の中でそれを聞いていた。

いきものたちが言った。

それはできません。
わたしたちにとっても森や精霊たちが死んでいることはたいへん心苦しいことです。
それでもわたしたちはふうせんばくだんをそらにとばさなければいけないのです。
もうこの星で住むことはできなくなってしまったのです。

わたしたちは争いをしません。
わたしたちは争いで生まれる恐怖をとても恐れるからです。
わたしたちは恐怖に触ると死んでしまうからです。
あなたたち人間は地上でたくさんの恐怖を生み出しています。
その恐怖に触れたわたしたちのなかまはつぎつぎに死んでいます。今、わたしたちの種族は以前の10ぶんの1に減ってしまいました。
もうすぐぜつめつします。

キラにもニクラにも、かれらのせっぱつまった気持ちが強く伝わってきた。
それでも、キラはまだ話し続けた。

いいえ、あなたたちはまちがっているわ。
精霊や森を壊してまで。。。

キラは自分の言ったまちがってるという言葉に戸惑って言葉につまった。
けれど、もう一度言った。

精霊や森を壊してまで、自分たちの望みを叶えるなんて、まちがっているわ。
きっと何か別の方法があるはずだわ。
わたしたちもあなたたちが地球で暮らせるように協力するわ。
だから、どうかふうせんばくだんをやめてください。

いきものたちはそれには答えなかった。

今度はニクラが頭の中で言った。

うん、ぼくも協力する。
きみたちが地球で暮らすことのできる方法がきっとあるはずだよ。
一緒にその方法を考えよう。

いきものたちが言った。

いいえ、あなたたち人間はこれからもずっと争いをやめません。
わたしたちはもうじゅうぶんに耐えてきました。でも、それももうげんかいです。
だから、この星にはもう住めません。
どうぞ、帰ってください。

ふたりはじっといきものたちを見つめた。

いきものたちもふたりを見つめていた。

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2023/10/04 11:40
せんちゃん、

はい、おっしゃる通り、めっちゃ難しいです!
でも、キラもニクラも彼らなりに本当に一生懸命彼らと向き合ってます。
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2023/10/04 11:39
ロワゾーさん、

ありがとう〜(涙)
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2023/10/04 09:19
難しい問題だ~!!
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2023/10/03 12:38
この童話素敵。
アバター
2023/10/03 12:37
なんて紳士的な対話なのだと、へんなところに感動しました。



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