キラとニクラの大冒険 (9)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/24 22:49:28
キラは、旅の用意が出来るまでの3週間、ずっと両親の気にいるような子でい続けた。
だんだんと冒険へ行くことなんて夢で、本当はこのままの生活がずっと続くだけなのかも知れないわ。と思い始めたとき、ニクラからの2通目の手紙が届いた。
キラはあわてて、ベランダに出た。
また木で作った飛行機がベランダに落ちていた。
こないだと同じ場所にニクラの姿が見えた。ニクラはまた大きく手をふっていて、キラを見つけると、すぐに走り去っていった。
キラはやっとニクラからの手紙が来たことが嬉しくて、やっぱり冒険に行くことは夢じゃないんだわ。と安心した。
キラへ、
待たせて、ごめん。
用意が出来たよ。
今日の夜、みんなが寝たら家を抜け出してほしい。家の前で待ってるよ。
バックパックとあめしらずを忘れないで。
ニクラ
キラはこの手紙に興奮して、誰彼構わず、明日冒険に出かける。と、言いたくなった。
部屋のドアをそっと開けて、1階の様子を伺った。
父親が何やら誰かと電話で仕事の話をしている声が聞こえた。
キラはドアを閉めて、出かける用意をした。
すでにバックパックにはニクラの手紙に書かれていたものが全て用意されていたけど、全部取り出してひとつひとつ確認した。
でも、食べ物はあまり多く用意できなかったので、それが不安だった。
でも、今からまた台所へ行って食べ物を取ってくるのは、あまりに危険だと思って、そのまま行くことに決めた。
それから、チーズ削りの木箱を開けて、あめしらずの様子を見た。
あめしらずは毎日その姿を変えていた。
今日はあめしらず自身が入っている木箱を真似た形になって静かにたたずんでいた。
キラは木箱もバックパックに入れた。
他に何か持って行くものは無いかと、考えを巡らせながら、両親が寝るのを待った。
いつまでも自分の部屋の明かりが付いているのを見られてはいけないので、ランプを消した。
しばらくして、両親が一階の寝室へ入って行く音が聞こえた。
キラはそれから1時間、さらに待った。
ゆっくりとバックパックをかついで、ドアを開ける。
家の中は暗く静まり返っている。
階段をきしませないように気をつけながら、キラは一階へ降りた。
玄関の鍵を開ける時、かちゃん!と音が出て身をすくめたが、誰も起きてくる気配はしなかった。
玄関のドアを開けて外へ出る。
庭を通り抜けて、前の道へ出た。
ニクラの姿を探して辺りを見渡すと、フクロウの鳴く声がした。
この辺りに一羽のフクロウが住み着いていて、夜になるとよく鳴くことがあった。
すると、もう一度フクロウが鳴いた。
キラは鳴き声のしたほうを見ると、木の陰にニクラがいた。
ニクラがフクロウの鳴き真似をしていたのだ。
キラはニクラに駆け寄りながら、思わず、ニクラ!と、大きな声で言ってしまった。
ニクラは口に人差し指を当てながら、
キラ。久しぶり。元気かい?
と、微笑んだ。
3週間ぶりに見るニクラはなんだか少し大人びて見えた。
キラは嬉しいけど、声を大きくしないように気をつけて言った。
うん、元気。ニクラは?
うん、ぼくも元気だよ。
キラ、今すぐここを離れたほうがいい。セイゲンさんの家に行こう。
ニクラはキラの手を取って走り出した。
走りながら言った。
キラ、バックパック重くないかい?
うん、大丈夫。服と少しの食べ物しか入ってないから。
二人は走りながら、今から冒険に出発だと思うと気持ちが急いた。
ワクワクするにつれて、二人の走るスピードはどんどん早くなっていった。
二人とも、自由に向かって走っているような気持ちだった。
セイゲンさんの家に着くと、セイゲンさんは入り口の部屋にいなかった。二人とも息が切れて、のどがカラカラだった。
水をゴクゴクと一気に飲んで、顔を見合わせて笑った。
セイゲンさんは裏庭で何かしているらしく、ランタンの灯りが見えた。
ニクラとキラが裏庭へ行くと、セイゲンさんは裏庭で焚き火をしてスープを作ってくれていた。
ランタンの灯りだと思ったものは焚き火の明かりだったのだ。
夜、出発するのは危険だゃ。
今夜は、これ食って寝ろゃ。
今夜のスープは、プカ(飛べない鳥)と、ジャガイモのスープだった。
とろりととろけるとても美味しいスープで、二人ともおかわりした。
次の日の朝早く、ニクラとキラは出発する支度をしながら、セイゲンさんと話した。
キラはニクラが作ったすばるからくりを見て驚いた。
これ、ニクラが一人で作ったの!?
ニクラ、すごい!!
ニクラは少し照れながら、
うん、セイゲンさんが作り方を教えてくれたんだ。
と言った。
キラはとても気に入ったようで二体のすばるからくりを撫でた。
イルカをなでて、ツキをなでた。
すると、ツキがピクリと動いたように見えた。
キラはびっくりして、これ動くの?と、ニクラとセイゲンさんを見て言った。
セイゲンさんは、言った。
海に入れると動くんだゃ。でも、地上で動くのを見たのは、はじめてだゃ。こいつはよっぽどおみゃが気に入ったんだゃ。
キラは興奮して言った。
すごいすごい!!
こんなすてきなのりもの、見たことないわ!
それから、セイゲンさんはすばるからくりの乗り方を教えてくれた。
簡単だゃ。
行きたいほうに身体を傾ければ、そっちに行くんだゃ。
慣れれば、思うだけでも、勝手に動くんだゃ。
んだもし、すばるがおみゃの心とつながっりゃ、んで、海んなかのやつともつながることもあったようだゃ。
つまり、すばるからくりは、操縦士の思うままに動くだけではなく、自ら状況を判断して、最良の動きを選択することも、まれにあるらしい。
しかも、その際に海の中の他の生き物たちの意識ともつながることが出来るそうだ。
すばるが海で暮らしていた大昔はそんなことはできなかっただろうが、なぜか木になり、それがすばるからくりになったときにだけ発揮される能力だった。
セイゲンさんはその他のこと、モリや火箱の使い方、そして、あめしらずのことも教えてくれた。
あめしらずをキラに飼っておくように。と、手紙に書くように言ったのはセイゲンさんだった。
あめしらずは、飼い主とその仲間を魔物から守ってくれる精霊のような生き物で、旅先に飼いならしたあめしらずをお守りとして持っていくことはこの地方に伝わる古い言い伝えだった。
50年前にイランを見つけた若者はあめしらずを持っていかなかったそうだ。
セイゲンさんは、あめしらずが精霊であることを信じていて、旅をするときは必ず持っていく。と言った。
あめしらずはどんな場所でも生きれるから、海の中でも平気だそうだ。
一通りの説明を聞いたら、ベーコンと目玉焼き、パンと紅茶で朝食をすませた。
出発のとき、セイゲンさんはもうひとつ大切なものを貸してくれた。
セイゲンさんがいつも使っている小さな馬車だった。
このうみゃ(馬)はちいこいけど、賢くて力があるんだゃ。
こいつがいたら、海までは心配ないゃ。
セイゲンさんはそう言って、ニクラにたずなを渡してくれた。
馬の名前はポルコといった。
ニクラとキラは、馬車に荷物を積み込むと、セイゲンさんにお別れを言った。
きっとここには戻ってくるつもりだったけど、それでも、自分たちの本当のおじいちゃんのようなセイゲンさんの家を去ることは辛くて、ニクラもキラも涙が出てきてしまった。
はい、ありがとうございます!
おっしゃる通り、この小説独特の世界観を意識しながら書いたつもりです。
楽しんでいただければ、幸いです(^-^)
主人公たち以外にも海の底の宝物、セイゲンさんや
すばるからくり、あめしらずなどなど、面白いこと
だらけで興味津々です
ジブリ映画になりそうな世界観で、この先も楽しみ
冒険のはじまりですね