キラとニクラの大冒険 (6)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/22 22:19:34
キラは家に帰ると、珍しく父親が玄関で出迎えた。
キラ、居間に来なさい。
父親は厳しい顔でそう言った。
キラは、はい、と言って、素直に居間へ入った。
母親は固い表情でソファーに座りキラを待っていた。
その顔はロウソクみたいな色に見えた。
キラが居間に入ると母親はため息をついた。
父親はその隣に座り、キラに、座りなさい。と、正面のソファーに座らせた。
父親が言った。
今日、何をしていたか、言いなさい。
キラは、森でニクラと一緒にいたと答えた。セイゲンさんの家に行ったことは話さなかった。
ニクラの名前を聞くと、母親はもう一度ため息をついた。
父親は厳しい口調で言った。
お前、どれだけ大変なことをしたのか、わかっているのか。
いずれ教師になるお前が、学校をさぼってニクラなんかと遊んでるところを町の人たちが見たらどう思う?
お前だけではなく、私たちの信用まで失うことになるんだぞ。
今度は、母親が柔らかい笑顔をキラに向けて言った。
お父様もお母様も、あなたの気持ちはわかるのよ、キラ。
たまには羽目を外したくなっちゃうのよね。
でも、あなたはまだ子どもだから、わからないのよ、キラ。
とっても大事なことなの。
みんな、あなたに期待しているの。私たちも町の人たちもよ。
教師というのは、正しい姿をみなに見せるお手本なのよ。
あなたはそれを裏切ったの。
はい、お母様、わかります。
キラは素直にうなずいて答えた。
母親はキラが素直に認めたことに少し驚きながら言った。
こんなこと、もう二度としないと約束してくれるわね?
わかったわ。お父様、お母様。
ごめんなさい。もう2度とこんなことしません。
母親はキラが素直に答えたことに満足して言った。
偉いわ、キラ。
やっぱりあなたはそんな子じゃないものね。賢くて優秀なわたしの娘よね。
いいこと、キラ、もう森に行くこともやめてちょうだい。それから、あの子と会うのも禁じるわ。
約束できるわね?キラ。
あの子というのは、もちろんニクラのことだった。母親はいつもニクラの名前を言わずに、あの子と言った。
はい、約束するわ。お母様。
キラはまっすぐに母親の目を見て言った。
母親は、キラのあまりの変わり様に感動していた。
ああ、キラ、あなたはやっとお父様とお母様の気持ちをわかってくれたのね。嬉しいわ、キラ。
母親は涙ぐんでいた。
明日から、また学校に行くのよ。
そうだわ!
明日は、サーシャの誕生日パーティーがあるのよ!
あなた、プレゼントを持って行きなさい。学校が終わったら、ドレスに着替えてパーティーに行きましょう!
キラは、うなずいて言った。
お母様、わたし、少し疲れてしまったの。お部屋に行っていい?
母親はもっと話したい様子だったが、父親が言った。
夕ごはんは食べないのか?
何も食べていないだろう?
うん、大丈夫。
ニクラがパンをくれたわ。
それにとても疲れたの。
母親が何か言いかけた。
あの子がくれたパンなんて、、
しかし、父親がそれを手
で制して言った。
わかった。部屋で休みなさい。
キラは、おやすみなさい。と言って2階へ上がっていった。
はじめて嘘をついた。
でも、キラは何も後ろめたく思わなかったし、何かすっきりした気持ちだった。
次の日、ちゃんと学校へ行き、勉強をした。
たった一日行かなかっただけで、学校の風景はいつもと変わらなかった。でも、おとといと今日ではキラの中で何かが大きく変わっていた。
夕方、家に帰って、服を着替えて両親とサーシャの誕生日パーティーへ行った。母親に言われた通り、キラはサーシャにプレゼントをあげた。
出かける前に母親から渡されたものだ。キラは中身を知らなかったけど、とてもきれいな包装紙に包まれた箱だった。
サーシャは、普段自分に接しようとしないし、媚びてもこないキラからプレゼントをもらって、戸惑っていたけど、包みを開けて声をあげた。
これ、わたしが欲しかった時計だわ!キラ、ありがとう!!
見ると、文字盤に小さなダイヤモンドがあしらわれたピンク色の子供用高級時計だった。
キラは、はしゃぐことは無かったけど、パーティーの最後までサーシャやオリビアたちのおしゃべりに参加した。キラの両親もサーシャやオリビアの両親たちとおしゃべりをして、終始楽しそうに過ごした。
それから毎日、キラは学校へ行き、ちゃんと勉強をした。放課後は家庭教師の来る日は家で真面目に勉強をして、その他の日はたまにサーシャやオリビアたちと、遊びに行くようにした。
母親との約束通り、森に行かなかったし、ニクラとも会わなかった。
サーシャとオリビアも、口数は少ないけれど、成績もよく、顔立ちも良く、家柄も上等なキラを自分たちのグループの一員としてふさわしいと認め始めていた。
とくにサーシャはプレゼントの効果が大きかったようで、キラを気にかけた。
サーシャはキラがあげた腕時計を気に入っていつも腕にはめていた。
セイゲンさんの家に行ってから、1週間がすぎた頃の夜、ベランダから、こつん、、、こつん、、と、物音が聞こえた。
キラは急いで窓を開けてベランダに出た。
ベランダには細い木と紙を簡単に組み合わせて作った飛行機が落ちていた。
飛行機には手紙がくくりつけられていた。
家の前の通りを見ると、夜の影の中に、ニクラがいて、にこにこと笑いながら、ベランダのキラに向かって大きく手を振っていた。
キラも大きく手を振り返した。
ニクラはキラが手を降ってるのを見てから、すぐに身を翻して暗闇の中へ走っていった。