Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (4)

奥にもうひとつ部屋があるらしく、ニクラは奥に向かって声をかけた。

セイゲンさん!
お邪魔します!いますか?

ニクラが何度か声をかけると奥の部屋からごそごそと音がして、老人が出てきた。
キラはその老人を見てひるんだ。
老人の身体は極端に小さく、キラとニクラよりも背が低かった。
背中がへんなふうに折れ曲がり、顔をほとんど下に向けてゆっくりと歩いて来た。
頭はほとんど大人の握り拳くらいの大きさしか無く、少しだけ見えている顔はシワだらけで目もシワの中に埋まっているように見えた。中でも特に目立つのが鼻だった。そのシワだらけの小さな顔面のど真ん中に不自然なほど大きくそびえ立つ山のような鷲鼻は頂上辺りでぐにゃりと曲がって、更にそのすぐ下の位置で元に戻るかのようにもう一度ぐにゃりと曲がっていた。
その鼻はくんくんと常に動いていた。それはまるで、目が退化した動物が嗅覚を頼りに生きているようだった。そして、実際に彼の目はとても悪かったし、彼の嗅覚はとても優れていて、匂いで誰がいるか見分けることが出来た。

老人は、

ひるめしかゃ。

と、聞いてきた。

ニクラは、

はい、今日はともだちを連れてきたので、2人前!

と答えた。

キラは少し怖かったけど、

はじめまして、キラと言います。お邪魔します。。

と、礼儀正しく自己紹介をした。

しかし、老人はキラのほうに顔も向けずに奥の部屋に戻ってしまった。

ニクラは奥の部屋に向かって言った。

セイゲンさん、裏庭、使わせてもらいますね!

奥の部屋からは何の返事も無かったけど、ニクラは勝手に奥の部屋の横にある短い廊下をずかずかと遠慮なく通り過ぎて突き当たりのドアをあけて裏庭に出た。
キラもそのあとをついて行った。奥の部屋のドアは閉められていて、セイゲンさんが何をしているのかわからなかった。

裏庭に出ると埃っぽくて薄暗い小屋の中とはうって変わって、明るく華やいだ庭があった。
裏庭には、大きくて立派な樫の木のテーブルがあり、その周辺には様々な花や植物が色とりどりに咲き、すぐそばに小さな畑もあって、少しづつだが、たくさんの種類の野菜が育てられていた。
モンシロチョウが飛んで、ハチドリが花の蜜を吸っていた。
畑の横には、古い井戸と、白や青、赤や黄色や緑と色とりどりのタイルで花や動物の模様で装飾された美しい焼きがまもあった。
その後ろに厩舎があり、厩舎の横で小さな馬が一頭、草をはんでいた。

あんまり素敵な庭なので、キラは思わず、わぁ、と声をあげた。

2人はテーブルについて、ニクラはキラににっこりと笑って言った。

セイゲンさん、何も言わないけど、大丈夫さ。今、ぼくたちのお昼を作ってくれてるよ。

キラはよくわからなくて聞いた。

ここはあのおじいさんのレストランなの?

ううん、ここはレストランじゃなくて、セイゲンさんの家なんだ。
セイゲンさんはもともと海の船乗りだったんだ。外国まで行くでっかい商船で料理長だったらしいよ。でも、遭難事故の後、海での仕事が無くなってから、船の整備士さんと2人でこの湖の船を作る工場を作ったんだ。その整備士さんはすごい船作りの名人で、セイゲンさんはその人から船作りの技術を教わって、職人になったんだ。
今はもう引退して、ここで一人で暮らしてるんだ。
引退してから、工場の職人たちにお昼ごはんをふるまうようになったんだって。
わざわざ町のレストランまで行くより、ここのほうが近いし、美味しいから、みんなここでお昼を食べるんだよ。
セイゲンさんは無口だけど、あの工場と職人たちのことが今でも大好きでさ、いつもとっても美味しい料理を用意してくれてるんだ。
セイゲンさんは職人たちに、工場が休みの日も食べにきていい。って言ってくれて、ぼくも工場が休みでもよくここでお昼ごはんを食べるんだ。
たまにセイゲンさんがいないときもあるからさ、今日はいてよかったよ。

キラは聞いた。

みんなお金は払わないの?

うん、船乗りってさ、仲間からお金を取らないんだ。それにセイゲンさんはこの生活が気に入ってるみたいだよ。
あと、海の船乗りだったとき、すっごい稼いで、セイゲンさんは大金持ちなんだって。って、みんなが言ってた。

おしゃべりしていると、裏庭に出るドアがぎいっと開いて、セイゲンさんが出てきて、ニクラを呼んだ。

できたぞぃ。

ニクラは立ち上がって、

うん!

と、元気よく小屋の中へ入って行き、すぐに両手にとても大きなお皿を二つ抱えて戻ってきた。
お皿からはもうもうと湯気がたち、庭に一気に美味しそうな匂いが広がった。

キラも立ち上がって、ニクラの持っているお皿をひとつ受け取ろうとした。
するとニクラは、

大丈夫、それより中からパンのバスケットを持ってきてよ。

と言った。

キラは恐る恐る小屋の奥の部屋に入るとそこはキッチンだった。
セイゲンさんはもう一つの部屋に行ったのか、もうキッチンにはいなかった。
昔ながらの鉄火を使った本格的なコンロが2台あって、大きな鍋がその上に置かれていた。まだ火を消したばっかりのようで、部屋の中はすごい熱気だった。
壁に付いた折りたたみ式の棚の上にバスケットに入った大きなパンがあった。
キラがそれを持ってキッチンから出ようとするときに、またニクラが入って来た。

セイゲンさん、ミルクももらうよ!と大声で言って、冷蔵庫から大降りの牛乳瓶を出した。

庭のテーブルには、大きな身体の大人の男が食べるようなとっても大きな草模様の皿のシチューがふたつ、カゴに入ったパンとふたつのグラスに入った牛乳が並んだ。

セイゲンさんはまだ小屋の中で何かしているようだった。

このパンもセイゲンさんが焼いたんだよ!

そういいながら、ニクラはもうパンをちぎってシチューにひたしていた。

キラも食べなよ!

ニクラはキラにもパンをちぎってよこした。

キラは大盛りの料理に戸惑って、ニクラに小声で言った。

わたし、こんなに食べきれないわ。残したら、セイゲンさんが気を悪くするんじゃないかしら?

ニクラはたくさんのシチューを口にほうばったままで言った。

だいじょぶ。ぼく食べるから。もぐもぐ。

キラは、ニクラが全然マナー知らずで、お母様が見たらきっとまた顔をしかめてチンピラって言うわ。って、思いながら、くすりと笑った。

キラは、パンをシチューにひたして一口食べた。
シチューの透明なスープには野菜やお肉のいい出汁がふんだんに出ていて、濃くて優しい味だった。本当にいつも両親と行く高級レストランのスープよりもずっと美味しかった。

透明なスープにひたって湯気を立てている大きなお肉はとろとろに柔らかく、煮込まれた大きなじゃがいもはほろほろと口の中でほぐれて甘かった。玉ねぎやにんじんやそら豆も裏庭で栽培している野菜で、太陽みたいな味がした。
とても美味しくて、キラは大きなお皿のシチューを全部平らげてしまった。

ああ、おなかいっぱい!
こんなに食べたの、生まれてはじめて!

キラとニクラはとても満足して、しあわせな気持ちだった。

このシチューはさ、職人のみんなにも大人気でいっつも大きなお鍋ふたつぶんも空っぽになるんだよ。

ニクラは思い出して言った。

そうだ、ぼく、セイゲンさんにすばるからくりのこと、聞いてみたいんだ。
セイゲンさんは海の船乗りだったから、なにか知ってるかも知れない。

ニクラとキラは裏庭の井戸でお皿を洗って、丁寧に拭いてからキッチンの戸棚に片付けた。井戸の水はきりりと冷たくて気持ちよかった。

アバター
2023/09/24 08:22
べるさん、

はい、セイゲンさん、めっちゃカッコいい職人さんです!
ドワーフって、小人ですよね、確か。
なるほど、近いかも知れないですね(^-^)
アバター
2023/09/24 06:50
セイゲンさん、大金持ちなのにそれをひけらかす感じじゃ無いし、船乗りの仲間にタダでご飯作ってあげるなんていい人ですね^ ^

見た目はドワーフみたいな小人を想像しました。



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.