Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 (3)

キラは驚いて、言った。

ニクラはこんな難しい本まで読むのね。

ううん、そんなに難しくないんだ。ゆっくり読めば誰にだってわかるさ。それに、ぼくたちが知らない面白いことがたくさんかいてあるんだよ。

ニクラは本をキラに見せた。
そのページはこの地方についての記述で、町の成り立ちや歴史、宗教や自然、そしてその中に海のことも書かれていた。

二人はそのページをゆっくりと読んだ。

昔はこの町で、海での漁は盛んに行われていたようだった。
しかし、ある事故をきっかけに人々は海へ行くことを恐れ、やがて漁は衰退し、代わりに林業や農業、また湖や川での漁業が栄えた。

今からおよそ100年前、海で漁をしていた漁船が突如、行方不明になった。その日から漁船が行方不明になる事故が増え、ある日、いっぺんに9隻の漁船が行方不明になった。
そのとき少し離れた場所で漁をしていた他の漁船の乗組員たちの話によると、7つの頭を持つとてつもなく巨大な蛇が突如海面に姿を現して怒り狂ったように次々と辺りの船を沈めたという。そして船員たちはその惨劇の最中に海の中に輝くお月様のような“何か”を見たと言うのだ。
行方不明になった船と乗組員たちは誰一人戻ってくることは無かった。
100年前に行方不明になったのは漁船だけではなかった。それからも近海を航海する運搬船や商船、海賊船などのいくつもの船も次々に行方不明になったり、沈没していた。
それらの多くの船の残骸も乗組員たちの死体も見つからず、全ては謎に包まれた。
ただ、海の底には黄色く輝く石があり、それに近づく者は7つの頭を持つ巨大な蛇に食われてしまうのだ。という伝説だけが残った。

それから50年経ち、一人の町の若者がその伝説に興味を持った。
若者は、行方不明になった船を探索するために道具を作った。
それがすばるからくりだった。

すばるからくりの詳しい仕組みについては記述されていなかった。

説明によると、若者はすばるからくりにつかまって海中深くまで潜り、沈没船を探索したらしい。
若者は、それ一つで国をひとつ買えるほどの大変な価値のあるイランと呼ばれる宝石を沈没船から引き上げて、大金持ちになったそうだ。
イランは黄色く輝く透明の大きな石で月から来たという伝説の宝石だった。

それから町の男たちは、こぞってすばるからくりを作り、もっと海の底に眠ってるかも知れない宝探しに海へ潜ったが、彼らは気が狂って自殺するか、海で行方不明になった。
そして、発見されたイランは若者が最初に見つけた一つだけで、他に発見した者はいなかった。
ある日、その宝石の話を聞きつけた他国の王様が馬車に乗って多くの歩兵や家来たちを引き連れてやって来た。
そして、目玉が飛び出すくらいのたくさんの金貨で若者からイランを買い取った。
そして若者はこの町で一番の大金持ちになった。
王様は来た時は馬車で来たけれど、その道中があまりに時間がかかって退屈だったので、帰りは船で帰ることにした。王様は町で一番立派な船を買った。
王様と多くの家来たちは、明くる朝、すぐにその船で出発した。
その次の日、町のこどもたちが、船の破片が少しだけ浜に打ち上げられているのを見つけた。
王様の船は沈没したのだ。
若者は沈没した王様の船からもう一度イランを見つけて、もう一度大金を手に入れようとまた海へ潜った。
しかし、若者が何度も潜って、いくら探しても王様の船は見つからず、ある日とうとう若者は海から帰ってこなかった。

100年前から続いたこの一連の出来事は、全て7つの頭を持つ蛇の呪いと恐れられた。

その後はもう誰も海へ探索に出かける者はいなくなった。

それが、海の宝物について書かれた全てだった。

キラとニクラは、わくわくしていた。こんなふうな気持ちになるのは、2人ともはじめてだった。

7つの頭を持つ巨大な蛇、月からやってきた宝石、呪い、海賊船、すばるからくり。

全ての言葉がふたりを夢中にさせた。
ふたりの頭の中には、とてつもなく素晴らしくて危険な大冒険の想像が広がっていた。
その想像はふたりを自由な気持ちにさせた。

ふたりはもう一度そのページを読み返した。そして、他のページも探してみたが、それ以上のことはどこにも書かれていなかった。

夢中になって本を何度も読んで、ふたりで話し合っていたらキラのおなかが、ぐう、と鳴った。
いつのまにかもうお昼になっていた。

キラは笑いながら言った。

お腹へっちゃった。朝から何も食べてないんだもん。

ニクラも朝から何も食べていなかったのではらぺこだった。

ふたりは町へ戻って、お昼ごはんを食べに行くことにした。
キラは親からお小遣いをもらっていなかったから、(必要なものは全て私が用意するから、あなたがお金を持つ必要は無いの。と、母親は言った。) お金など持っていなかった。
だから、わたしお金持ってないわ。と正直にニクラに言った。
ニクラは、にっこり笑いながら、大丈夫さ。とだけ言った。

実際、ニクラはアルバイトで稼いだお金は本を買う以外、ほとんど貯めていたので、大人が一人2~3ヶ月は暮らせるほどの蓄えがあった。
だけど、今からお昼を食べに行くところではお金がかからないことをニクラはわかっていた。

キラは町へ戻ると誰かに会いそうで、少し怖かったけど、ニクラに着いて行った。

町に着くと、ニクラはレストランの並ぶ人通りの多い大通りには行かず、狭い路地を曲がった。

ニクラ、どこへ行くの?

キラが心配になって聞くと、ニクラは言った。

ぼくのお気に入りのお昼ごはんを食べさせてあげるよ。レストランなんかより、ずっと美味しいんだよ。

ニクラは狭い路地をどんどん進んでいく。キラはそのあとをついて行った。
何度か角を曲がり、塀と塀の間にうっそうと生い茂ったつる草のトンネルをくぐり、しばらく歩いて、まだ着かないの?とニクラに聞こうとしたとき、唐突に路地は終わり、開けた場所へ出た。
そこは町の裏側にある湖のほとりで、湖で魚を獲る漁師以外は誰も来ないようなところだった。
正面に湖が広がり、左手には小さな小屋があった。

ほら、見てごらん。あそこに工場が見えるだろ?

ニクラは湖の右岸を指差して言った。
見ると、湖の岸辺のぎりぎりのところに工場があった。

あれは何の工場なの?

キラが聞くと、

湖の漁のための船を作ったり、修理する工場なんだ。ぼくもたまにあそこで働くんだよ。ワイン売りよりお金がいいんだ。
いつもは、工場からキンコン、ギコギコって船を作る音が聞こえるんだけど、今日は休みなんだ。
親方連中が隣町に行ってるんだって。

ぼくらがお昼ごはんを食べるのは、あの小屋さ。

ニクラは左手のすぐ近くにある小さな小屋を指差した。

その小屋は今にも倒れてしまいそうに傾いて薄汚れていて、どう見てもレストランに見えなかった。

ニクラはキラがいぶかしく思ってる様子なんてお構いなしに小屋へ入っていった。
ギィ、と今にも壊れそうな木のドアを開けると、小屋の中は、小さな部屋になっており、薄暗く古ぼけた小さな窓から薄く明かりが差し込んでいた。
100年もそこにあるような木のテーブルと2脚の椅子、煤だらけの暖炉や、チューリップの形をしたランプ、本がぎっしりと詰まった埃をかぶった本棚、油で固まったライフル、くたびれたブーツ、赤く錆び付いた工具などがいたるところにあって、床には曲がった釘やら古いコインやらが散らばっていた。

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2023/09/22 07:51
はい、大冒険ですので!(^-^)

確かに、大人たちはめんどくさいです。。
ニクラとキラのようにシンプルな人たちばかりだったら、きっと世界は平和なのにな〜。。
実際は、この小説の大人たちのようにややこしい人たちがたくさんいるからな〜。。

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2023/09/22 05:55
命がけのお宝なんですね…そのイランがまた見つかったら欲にまみれた大人が集ってきそうなのがちょっと怖いですね(*_*)



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