Nicotto Town


せんちゃん


黒いピアノと黒い猫 3

父が僕をキライになったのは、僕が父の嘘を見抜いたから。


きっとそうだ。

だって、父が嘘を言うようになるまでは僕たちはけっこういい親子だったと思うから。
その頃は母も生きていて、猫のエゼルも…。
森で会った、あの猫はエゼルに似ていたな。瞳の色はエゼルは緑色だったけれど。
どっちもしっとりしたビロードみたいな黒い毛なみで。

「ギャオウ」

また、あの黒猫の鳴き声がどこかから聞こえた。
エゼルはもっと可愛い声だった。「ミャウィ~」っていう感じの。
あの黒猫、父に見つからないように隠れていてくれるといいけど。
でないと、また…。

昼間、父にぶたれた時のことを思い出して鼻の奥がつんとしてきた。

「ルービン、イヤなことがあった時は楽しい曲を弾くのよ」

母がそう言ってピアノを弾いていたのを思い出した。母のピアノはいつも即興で時には面白い歌詞をつけて歌ったりしていた。
そして足元ではいつもエゼルが尻尾をぱたぱたさせながら母を見上げていた。

時にはエゼルは鍵盤の上に飛び乗って、昼寝を始めたりもしたけれど、母は笑って弾き続けた。

小学校に入る少し前だったと思う。
ピアノの鍵を母がかけ忘れた時に、悪戯して10本の指全てで鍵盤を端から端まで叩いて遊んでみた。うるさかったんだろう。エゼルは抗議するように鳴いてぷいと部屋を出ていってしまった。

調子に乗って、そのままピアノを叩いているといつのまにか母が後ろに立っていて「前衛的な演奏ね」と笑っていた。

それから、母は僕にピアノを教えようとしたけれど僕には母みたいな才能はなかった。
でも、それでもかまわなかった。
僕が気ままに1本指で弾いた音に母が和音を合わせてくれて、いつのまにか素敵な「曲」になっていることもあった。

そんな遊びに夢中になって、母が食事の支度を忘れるなんてこともしょっちゅうだった。

そもそも、母に「料理」を作ってもらった記憶はない。
野菜は切るだけ。それにハムやチーズやパンも切るだけ。
学校に行くようになって級友の家では母親が毎日肉や魚を焼いたりスープを作ったりしていることを知って驚いたものだ。

父もそれに文句を言ったりしなかった。
自分が食べたいと思ったときには父が凝った料理を作ってくれることもあった。

僕は父が時々朝食に作ってくれるフルーツ入りのパンケーキが好きだった。

最後にそれを食べたのはいつだっけ?









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2023/09/21 15:05
鳩羽さん、するどい!
実はルービンの名前を出していないことに気付いて、急遽入れたというww

読みやすいと仰って頂けて嬉しいです。
ルービンと両親の間で何が起こったか、最後までお付き合い下さいませ。
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2023/09/20 21:26
主人公がルービン(何気に初出?)。
ルービン君が家族を大事に思っていたのが、伝わってきます。
お父さんが料理上手…もとは愛情上手でもあったのかな…。
記憶をたどるように進む物語で、読みやすいです♪
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2023/09/20 19:26
もふもふさん、読んでくれて嬉しい♪
まだ人物紹介だけ(;^_^A 起承転結の起のところなので先は長いっす。
このくらいの長さで続けるとあと12回の予定。
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2023/09/20 19:14
落としどころがまだ見えないねえ。
どうなるのかな?
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2023/09/20 16:33
ちくちくたん、大丈夫。ハッピーエンド(だと思う)だからw
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2023/09/20 14:34
・・・(;・ω・;)・・・ドキドキ・・・



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