キラとニクラの大冒険 (2)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/19 18:50:59
昨夜、ニクラが叔父に殴られていた頃、キラは2階のベランダから月を見ていた。
キラの両親は二人とも教師だった。父親はキラの通う学校の校長で、県の教育委員会の委員長も務めていた。
この国で学校教師というのは医者や政治家のような高い階級で、よほどの成績で高級大学を卒業した者しかなれない職業だった。
高度な教育こそ強大な国を作る礎になると信じられていたからだった。
学校教師は町の人たちから聖職者として崇められ尊敬された。
ましてや、教育委員会委員長である父親には町のルールを変えるほどの権力を持っていた。
母親は目鼻立ちの整った美人で、すらっとした鼻や柔らかな笑顔は人に慎ましく美しい印象を与えた。また、彼女は人に好印象を与える術を心得ていた。
町の高官たちが集まるパーティーではいつも人目を惹いた。
母親もまたキラの通う学校の国語の教師で、町の人たちはキラの家族を、非の打ち所がない理想的な家族だ。と噂した。
母親は家をいつも清潔に保つために掃除婦を雇い、庭をいつも素敵に保つために庭師を雇った。
おしゃれで高価な家具を集め、しかし嫌味に見えないように気を遣っていた。
キラにも常に学年で一番の成績を求めて、家庭教師をつけていた。もっとも、学校教師の家で家庭教師を雇うのだから、表向きは掃除婦の一人ということにしていた。
全ては世間体のためだった。
彼女は教育委員長の妻であり、また自分も優れた教師であるその立場が気に入っていた。
彼女にとって、それは何よりも大事だった。
そして、自分も自分の家族も全ては完璧であると信じていた。
だから、キラも完璧であることを当然のこととして求めていた。
その日の夕食で、母親はキラに、またニクラのことを言った。
あなたは将来、教師になるのよ。そのためにもっと賢い子たちと付き合いなさい。あんな汚らしい子と会うのはやめて、サーシャやオリビアたちと付き合うのよ。
校長と教師の娘であり、しかもいつもとっつきづらい雰囲気を持っていたキラは学校のみんなから敬遠されていた。
学校でキラに気軽に話しかけるものはおらず、キラはいつも一人でいた。
母親はキラがもっと上級の家庭の子供達と仲良くなることを望んでいた。
サーシャとオリビアは町の議員や医者の子供だった。2人は優等生で学校や町の大人たちからちやほやされていたし、子供たちからも人気のあるリーダーだった。
でも、キラはサーシャやオリビアといった子供たちに馴染もうとはしなかった。
キラは、彼女たちはグループを作って他の子供たちを見下しているように感じていたし、好きじゃなかった。
キラはそのままの気持ちを母親に言った。
わたし、あの子たち好きじゃないわ。それにニクラが汚らしいなんて思わない。あの子と一緒にいると楽しいわ。
しかし、母親はそれを認めなかった。母親はフォークとナイフを使う手を止めて言った。
いいこと?あんな子と一緒にいたらあなたまでバカになるの。あなたは美しくて優れた子供なの。他の子と違う特別な人間なのよ。それがわからない?
あなたの将来のために言ってるの。それともあなたはあの子のようなうす汚いバカな人間になりたいの?だいたいあの子は学校へも行かず、いつもぶらぶら森で遊んでるらしいじゃない。まるでチンピラだわ。
いいこと、あなたはもっと賢い子供たちと、、
キラはそこまで聞いて、もう我慢できなかった。
ニクラはバカじゃない!!
それがわからないお母様のほうがよっぽどバカだわ!!!
母親は、かっとなって立ち上がり、平手でキラの頬をぶった。
親に向かってバカとはなんですか!!
わかってないのは、あなたのほうです!!
キラは生まれてはじめて母親にぶたれた。
もう気持ちを抑えることが出来なかった。
テーブルクロスを無理やりにひっぱった。
テーブルの上の食べ物はひっくり返り、グラスは床に落ちて割れた。
キラは泣きながら、2階へ駆け上がって自分の部屋へ閉じこもった。
母親は、待ちなさい!とさけんでいたが、キラにはもう聞こえてなかった。
キラは布団にもぐって泣いた。
ニクラのことをあんなふうに言われたことが悔しかった。
ぶたれた頬がじんじんと痛くて、頭のどこかでぶたれるとこんなふうにほっぺたがしびれるんだ。って思っていた。
母親は階段の下から何度も、降りてきなさい!と、キラを呼んだ。
しかし、キラは布団から出なかったし、母親も2階のキラの部屋へ上がろうとはしなかった。
キラは嫌なことがあるとよくベランダから月を眺めた。
月を見ていると、自分の心の中から嫌なことがきれいにぬぐわれていくように感じた。
夜はまだ寒かったけど、キラはしばらくベランダで月を見ていた。
ニクラに会いたかった。
月は静かに張り詰めた夜空にくっきりと白く浮かんでいた。
翌朝、両親が起きるより早く起きて、朝ご飯も食べずに家を出た。学校へ行くつもりは無かった。
森へ行くと、ニクラがいつもの大木の下に座って、熱心に本をめくっていた。
キラは嬉しくなってニクラに駆け寄った。
ニクラ!
ニクラは本から顔を上げると、キラがいることに驚いた。
キラ、こんな朝早くにどうしたんだい?
キラは母親にぶたれたことを話し、それから、月を眺めたことを話した。
母親がニクラをバカな汚らしいチンピラと言ったことは言わなかった。
それから、月を見ていたら、なんだかもう学校なんて行きたくなくなっちゃったの。
キラは今まで一度も学校を無断で休んだことなんて無かった。
親に反抗はしていたけど、それでもやっぱり学校をさぼるなんてとんでもないことだ。って思っていた。
でも、昨日の夜、月を見ていたら、なぜだかいつのまに、いろんなこだわりが解けるように無くなっていき、今まで大事だと教え込まれてきたものたちがつまらなく思えていた。
ニクラはそんなキラの様子に少し戸惑ったけれど、彼女のすっきりとした目を見たら、なんとなくキラの胸の内がわかった。
うん、ぼくは学校に行ったことがないけど、キラが行きたくないならきっとそれでいいんじゃないかな。
キラはニクラに話して、やっとホッとした。
やっぱり学校をさぼるなんて大それたことをしようとしてるのが怖かったし、母親に強く反抗したことの不安もあった。
ニクラに話してよかったわ!
だって学校をさぼるなんて不良だもの!
キラは笑って言った。
ニクラも笑いながら、言った。
そうさ、キラもぼくとおんなじチンピラだ!
ニクラが自分のことを昨日の母親と同じように言ったので、キラは思わず笑ってしまった。
ニクラ、お母様と同じこと言ってる!
ニクラはきょとんとした。
お母さんと同じってなんのことだい?
キラは、言った。
いいの、そんなこと。
それよりニクラこそ、こんな早くにどうしたの?
ニクラは今朝聞いた叔父の寝言のことを話した。
すばるからくりってさ、どこかで聞いたことがあるような何か引っかかる言葉なんだ。
今まで噂で聞いたでたらめな話とは違う感じなんだ。
もしかしたら、本に書かれているかと思ってさ、今、調べているところなんだ。
キラも海の宝物の噂は聞いたことがあった。
それで、そのすばるからくりは何なのかわかったの?
ニクラはにっこりと笑って言った。
うん、ちょうどキラが来るちょっと前にこの本の中に見つけたよ。
まだ全部読んでないけどさ。
見ると、それは大人でも読むのが難しそうな立派で分厚いこの国の古い歴史書だった。
はい、この歴史書にヒントが書かれてるようです〜(^-^)
いえ、この二人を足して2で割ったところで、全然良い人間はできないです〜!
二人とも自分のことしか考えてないという意味では同類なので。。
キラちゃんのお母さんとニクラくんの叔父さんを足して2で割ったらちょうどいい感じの大人が出来上がるかもしれませんけどね・・・世の中上手くいかないものですよね(><)
ふふ、そうかも知れませんね(^-^)
読んでいただいて、ありがとうございます。