レストラン (3)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/11 06:03:16
*レストラン(1)(2)を読んでから、これをお読みくださいな。
ふたりはからになった皿を持ってカウンターへ行くと、今度はグラタンだった。
熱いから、これで運んで下さいな。
店主が差し出し口からそう言いながら、厚手の鍋つかみをふたつカウンターに置いた。
チャックとベリーはやけどしないように気をつけて、グラタンをテーブルに運んだ。
席について早速スプーンでグラタンをすくって口に入れた。
牡蠣のグラタンで、これもはじめて食べるものでぷっくりとした牡蠣とところどころ焦げたとろとろのチーズが絶妙にマッチして、口中が美味しくて幸せな気持ちでいっぱいにさせてくれる料理だった。
ふたりとも夢中になって牡蠣グラタンを食べていると、差し出し口から店主の声が聞こえた。
もう一皿、食べれますか?
チャックとベリーは声を合わせて言った。
もちろんですとも!!
二人が牡蠣グラタンを食べ終わる頃、また差し出し口に料理が置かれた。
二人はワクワクしながら、空になったグラタン皿を持っていった。
料理にこんなにワクワクするなんて、二人とも生まれて初めての経験だった。
差し出し口には、ふわりと広がった花のような真っ白な美しい器が置いてあった。
中には鯛の頭と細いスパゲッティのような白い麺がたゆやかにスープの中に沈んでいた。
二人とも見たことのない料理だった。
チャックが差し出し口の向こうにいる主人に聞いた。
これは何という料理ですか?
ええ、それは日本の四国というところの名物料理でして、鯛そうめんと言います。
そうめんというのは日本のトラディショナルな麺のひとつです。
冷たく仕上げてますので、軽く腹に入りますから、シメにはちょうど良いと思いますよ。
チャックとベリーはテーブルへ白い器を運ぶと早速、鯛そうめんを試してみた。
ひんやりと冷たいそうめんは豊かな海の香りとさわやかな柚子の香りが相まって、口も鼻も喉の中も、美しい水で満たされるようだった。
二人は初めて食べる料理に驚きながらも夢中で食べて、スープの一滴まで残らず飲み干した。
ベリーは名残惜しそうに空になった器を見ながら、言った。
これはすごいぜ。。
素人のおれにでもわかるぜ。こんなのフランスのどこに行ったって食えやしないさ。
チャックも言った。
ああ、あと、5杯は食えそうだ。
そのとき、差し出し口から主人が言った。
おふたりともデザートは召し上がりますか?
チャックとベリーはふりかえって同時に言った。
もちろん!!
デザートは香ばしく表面を焼かれたプティングだった。
とても甘いのに、喉を通ったあとにするりとそよ風が通るような素敵なプティングだった。
ベリーはぽっこりふくれたおなかをさすりながら言った。
うまかったなぁー。
チャックもリラックスして笑いながら言った。
ああ、うまかった。。
ふたりともとても満足して、料理ひとつひとつを思い出していた。
今はまだ余韻にひたっていたくて、感想を話す気にはなれなかった。
しばらくすると、店主がキッチンから出てきた。
おふたりとも満足なさっていただけましたか?
いやはや、こんなうまい料理を食ったのは生まれてはじめてですよ。
ご主人はもともとパリの高級レストランで働いていたんですか?
と、チャックが言った。
いえ、わたしはこの店を開いてから料理をはじめたのです。
昔から食いしん坊でね、うまいものがあると聞けば、中国でも日本でもインドでも、どこにでも行って食べ歩いたのです。
それで今度は自分で作りたくなってね、故郷のこの町へ戻ってきてこのレストランを開いたんです。
チャックとベリーは店主の話を聞きながら、不思議に思っていた。
あれだけたくさんの料理を作ったのに、店主の白地に可愛らしい花柄のエプロンはちっとも汚れていなくて、シミ一つ無いのだ。
それに、もうひとつ不思議なことは、店主がキッチンで料理しているとき、思い出してみればほとんど音や匂いもしなかった気がするし、ふたりとも美味しくてどんどん料理を平らげたのに、いつも食べ終わるちょうどよいタイミングで次の料理が魔法のように出てきたのだ。
この店主一人で作ってるには、料理が出来るスピードが早すぎる。。
ベリーが気になったことを思ったことをすぐに口に出してしまう素直な性格そのままに言った。
それにしても、ご主人のエプロンは全く汚れてないんですね。
それにひとりでやってるのに、よくもまああんなに早く料理を次々に出せるんですね。魔法みたいだ。
すると、店主が言った。
はは、たまに不思議に思われるお客さんもいるようです。
(そして、声をひそめて)
いや、実は私、ひとりじゃないんです。
ああ、じゃあ、やっぱりキッチンには他のシェフもいるんですね!
とベリーが言った。
いや、私の他にシェフはいないですよ。
でもね、
(ふたりに耳打ちするように)
キッチンには妖精がいるんですよ。いえ、妖精と呼んでいいのかわからないのですが、へんてこなやつらが現れてね、そいつらが私の料理を手伝ってくれるのです。
私の頭の中にある料理のアイデアを何も言わなくてもわかってくれる素敵な妖精たちがね。
店主はそう言ってウインクをひとつすると、店の奥へ戻って行った。
チャックとベリーは顔を見合わせた。
ベリーが首をかしげながら頭の横を指でくるくるした。
あいつ、頭がおかしいのか?ってことだ。
チャックが言った。
まあ、妖精だろうが、キチガイだろうが、とにかくこれだけうまいものを食わせてくれたんだ。
チップをはずんで行こうぜ。
ベリーは同意して、奥へ向かって声をかけた。
ご主人、おいくらですか?
しかし、奥からは何も答えがなかった。
チャックはもう一度、今度は大きな声で言った。
おーい、ご主人!
おあいそしてくれ!
それでもまだ返事が無いので、ベリーは立ち上がって、キッチンへ入る扉を開けて、中をのぞいた。
なんだ、こりゃあ!
ベリーの驚く声に、チャックもキッチンへ入った。
どうした?
チャックとベリーはキッチンを見ていた。
客のテーブルから差し出し口を通して見える角度にだけ、コンロや鍋なんかが置いてあったけど、あとはただの野原だった。
タンポポが咲いて、2匹のモンシロチョウが飛んでいるだけの原っぱだった。
その原っぱにハリボテが建てられてあって、外から見ると奥のキッチンがあるように見えた。
チャックとベリーは原っぱを呆然と眺めながら突っ立っていた。
風にゆられてたんぽぽが揺れていた。
はい、これ、昔に書いた小説なのですが、書いてる時って、あまり先のこと決めないで書くんですね。
んで、書いてる途中に、もしかして?と、思ったら、やはりもしかしてでした(^-^)
その、もしかして?にあえて、逆らって、違う結末にしようかとも考えたのですが、それってあまり素直じゃ無いな〜。と思って、素直にそのまま書いてみた覚えがあります。
そうなんです。
夢じゃなくて、本当に確かに二人は美味しい料理をお腹いっぱい食べたんです(^-^)
そこだけはぜひ、読者のみなさんにわかっていただきたいポイントです。
どうでしょう?
そのご主人や妖精たちは、二人の様子を見てますかね?
もしかしたら、もういなくなってるかも知れないし、本当にそんな人は初めからいたのでしょうか?
おれにもわからないです(^-^)
ご主人と(妖精の仲間たち?)に一杯食わされましたね( *´艸`)
美味しい料理といたずらを。
夢かな?と思っても、確かに美味しい料理でお腹がいっぱいに
なってるから、不思議なことが起きたもんだ!ですね
きっとご主人(と仲間たち)どこかから二人が驚いてる様子を見てるよね
はい、確かに。
ご主人はどこに行っちゃったんでしょうね。。
案外、チープなトリックを使った彼のいたずらのようなものかもしれないし、もしくは、もっと不思議な力が働いていたのかもしれません。
でも、素晴らしい食事ができて、本当に良かったです!
ご主人はどこに行っちゃったんでしょうね~
で美味しいご飯を食べさせてもらったのは嬉しいけど、謎はずっと残ったままですねw
はい、おれも美味しそうだな〜。。と思いながら、この小説を読みました(^-^)
はい、確かに注文の多い料理店のオマージュのような作品だと思います。
あの小説はおぼろげにしか覚えてないのですが、確か、主人公たちはあまり良い思いをしなかったですよね?
子供心にそれがちょっと腑に落ちなくて、せっかくレストランに来たんだから、美味しい料理をたらふく食べさせてあげたらいいのに。って思ったような気がします。
そんな思いが子供の頃にあったから、この小説を書いたのかも知れませんね。
不思議なお話ありがとう
山猫軒を、思い出しました^^
う〜ん、たぶん、ご主人の言っていた通り、ご主人はアイデアを考えて、それを妖精たちが料理してくれたのだと思うんです。
そうですよね、妖精が消えるのはわかるけど、ご主人はどこへ行ったのでしょうか?
おれにも、正直、わからないんです。。
でも、チャックとベリーは確かに料理を食べて、その料理は二人のおなかの中に収まっているので、幻ではなかったのことは確かなんです。
もう二度とそのレストランにたどり着けないのかもですね。
素敵でした。