海の見える町 (1)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/03 09:35:13
これは、かなり好きな小説なのだけど、まだ途中まで。
とりあえず一区切りついたところで、止まってる感じ。
そのうち、続きを書きたい小説の一つ。
それを丸ごと載せようとしたら、余裕で1万文字超えてて、これは3,000文字までなので、載せれなかったから、3〜4回に分けて載せようかね。
ということで、今日は第一回ね。
ということで、今日は第一回ね。
「海の見える町」
朝から庭にはどしゃぶりの雨が降っていた。
窓から町の向こうに海が見える。厚い雲の下の濃い藍色の海面には白波が目立ってきた。
ラジオから気象予報士が台風に備えるよう注意を呼びかけていた。
この町は他で見ない珍しい魚や貝などの豊富な魚介類が獲れる素晴らしい海があるけど、ほとんど知られていないので、観光客が来ることなど滅多に無い。
おれが初めてここに来たのも、12年前の旅の途中でたまたま海を見たくなったから地図上で見つけたこの小さな漁師町に立ち寄ったに過ぎない。
おれは5ヶ月かけてこの国を横断していた。ただ横断するだけなら2週間で事足りるが、気に入った町があれば1~2週間滞在してみたり、南北にも興味のある町を見つけたら、どんどん動いた。しかし貯金も少なくなり、旅にも疲れ始め、もうそろそろ自分の街へ帰ろうかと思っていたころにこの町に来たのだった。
はじめは何の変哲もない辺鄙な漁師町だと思った。
町に着いたのはもう日もくれて7時をまわっていた。古めかしい鉄道列車に乗って来たのだけど、ずいぶんとのんびりした列車でそんな時間に到着したのだった。
宿の予約もしないで来たので、駅前にあったベッド&ブレックファーストに入り空室があるか聞くと、すんなり泊まることが出来た。
部屋は小さいけれど、感じのよい家具が置いてあり、ほがらかな雰囲気だった。
窓にかかっているカーテンは、古ぼけて少し黄ばんでいたけど、昔の図鑑に載っているような花や鳥や亀や魚の色とりどりのイラストがプリントがされている可愛らしいものだった。
夕食がまだだったので、まるまると太ったベッド&ブレックファーストの主人に近所のレストランを聞くと、うちはベッド&ブレックファーストだけどたまにディナーも出します。追加で$5いただきますが、もしよかったらいかがですか?今、ちょうど作り始めたところで30分もあれば出来ますよ。と、言われ、安いし今から外に出るのも億劫だったのでお願いすることにした。
一旦、部屋に戻る。TVをつけた。ローカル局の番組で、この地方の漁のドキュメントのようだ。
「エスパー」という種類の海鳥を使ったとても特殊な漁だった。漁師が小ぶりの漁船で港から沖へ出ていくと彼が飼っているエスパーが3~40羽も船の上空に群れてついて行く。
ポイントに着くと、漁師は船を停めて錨を沈める。彼が口でおならのような大きな音を鳴らすとエスパーたちは一斉に上空から一直線に海へ飛び込んでゆく。
海中カメラがその様子を捉えている。まるで弾丸のようなスピードで海中へ突っ込んでくるエスパーたちはその勢いそのままに海面近くを群れて泳ぐ魚たちをその鋭い嘴に突き刺して捕獲する。あるいは嘴をほんの少し開けてその間に滑り込ませて捕獲しているものたちもいる。
魚を捕らえたエスパーたちはすぐさま海上へ飛び出して、上空から器用に魚を船のかんばんに落とす。そして身を翻してまた海面へ突入してゆく。
船のかんばんは瞬く間に大量の魚たちで埋め尽くされる。
ちょうどそこまで観たところで階下から呼ぶ声がした。
お客さ~ん、夕食の用意ができましたよ~。
一階の食堂に行くともうディナーの用意が整っていた。6人掛けのテーブルに皿とフォーク、ナイフ、スプーン、ナプキンのセットが二人前用意されていた。主人がキッチンから両手に料理の乗った皿を持って、大きなお腹を揺らしながら出てきた。
今日はお客さん一人だけなので私もご一緒しようと思いましてね。ご迷惑じゃなければ。
おれは、別に構いませんよ。と言った。
主人はキッチンと食堂を往復して次々に料理を運んできて、最後には大きなデキャンタに入ったワインまで持ってきた。
魚介料理が多く、ハマチのような魚の大ぶりな切り身のマリネ、白身魚を揚げて酢漬けにしたもの、スズキのような魚の焼き物、揚げダコ、えびの酒蒸し、ホタルイカの海藻サラダ、アスパラガスのマヨネーズ添え、ポトフ、それにパンとバター、それから赤と白ワイン、という豪勢な料理が並んだ。
おれは驚いて、こんなごちそうで$5なんですか?と聞くと、
料理は私の趣味みたいなものですから、食べてもらえると嬉しいんですよ。と笑った。
さて、いただきましょうか。と言いながら主人はエプロンを外し横の椅子の背もたれにひっかけると、おれの対面に座った。
もしかすると、と思って、主人に聞いてみた。
先ほど、テレビでこの地方の漁のドキュメンタリーを見たのですが、この料理のどれかがエスパーという海鳥を使った漁で獲れる魚ですか?
ええ、この白身魚がそうです。今日は揚げて酢漬けにしてみましたが、焼いたり蒸したり、それから日本風に刺身や寿司にしてみうまいもんですよ。ここの海でしか獲れない魚です。
ひとつその魚を食べてみると、今まで食べたことのない味だった。
ずいぶんと甘みがあって、柔らかいがほんの少しだけコリコリとした歯ごたえがあった。酢漬けも程良く、いくらでも食べられそうだった。
とても美味しくて、腹も減っていたので思わず立て続けにみっつも食べた。
主人はそれを見て嬉しそうに、いかがです?と聞いてきた。
とても美味しいですね。初めて食べる味です。と言った。
主人はますます嬉しそうに、そりゃあ、よかった!他の魚もうまいものですから、どんどん食べて下さい。ワインもぜひどうぞ!と、グラスになみなみと白ワインをついでくれた。
このワインもね、この地方独特のものなんですよ。なんといっても白が格別なんです!
一口飲んでみると、本当に美味しかった。とても軽く明るい味で飲みやすく、どの料理ともよく合った。
主人はよく早朝に港へ行き、その日の水揚げで気に入った魚があればその日のディナーにするらしく、何年もここの漁師たちとの付き合いがあり、この地方の魚と海にだいぶ詳しかった。
その白身魚は「フルシアンテ」と呼ばれる魚で、台所から実物を持ってきてくれたが、見たことの無い魚だった。
頭が小さめで胴がぷっくりしており尾が細身で少し長く、イワシのようにほのかに緑がかった銀色で、ピカピカと光っていた。
匂いを嗅いでごらんなさいと、魚を鼻へ近づけて嗅いでみると、柑橘類のような甘酸っぱい香りがした。
それから、主人はこの地方の興味深い海と魚の話をたくさん聞かせてくれて、おれは料理も食べ過ぎなほどたくさん食べて、ワインもたらふく飲んだ。思いがけず大満足なディナーとなった。
正直、この国でこれほど見事な料理を食べれたのは初めてだった。
もちろん、高い金を出してミシュランの星がついたレストランに行けばうまいものが食べれるけど、これほど気やすいベッド&ブレックファーストでこんなに素晴らしいディナーを食べられるとは驚いた。
腹一杯で部屋へ戻り、ベッドに横になってTVをつけた。
ずいぶんと古そうな映画を放送していた。ぼんやりとそれを眺めているうちに、飲み過ぎたワインのせいもあって、あっけなく寝てしまっていた。
窓から町の向こうに海が見える。厚い雲の下の濃い藍色の海面には白波が目立ってきた。
ラジオから気象予報士が台風に備えるよう注意を呼びかけていた。
この町は他で見ない珍しい魚や貝などの豊富な魚介類が獲れる素晴らしい海があるけど、ほとんど知られていないので、観光客が来ることなど滅多に無い。
おれが初めてここに来たのも、12年前の旅の途中でたまたま海を見たくなったから地図上で見つけたこの小さな漁師町に立ち寄ったに過ぎない。
おれは5ヶ月かけてこの国を横断していた。ただ横断するだけなら2週間で事足りるが、気に入った町があれば1~2週間滞在してみたり、南北にも興味のある町を見つけたら、どんどん動いた。しかし貯金も少なくなり、旅にも疲れ始め、もうそろそろ自分の街へ帰ろうかと思っていたころにこの町に来たのだった。
はじめは何の変哲もない辺鄙な漁師町だと思った。
町に着いたのはもう日もくれて7時をまわっていた。古めかしい鉄道列車に乗って来たのだけど、ずいぶんとのんびりした列車でそんな時間に到着したのだった。
宿の予約もしないで来たので、駅前にあったベッド&ブレックファーストに入り空室があるか聞くと、すんなり泊まることが出来た。
部屋は小さいけれど、感じのよい家具が置いてあり、ほがらかな雰囲気だった。
窓にかかっているカーテンは、古ぼけて少し黄ばんでいたけど、昔の図鑑に載っているような花や鳥や亀や魚の色とりどりのイラストがプリントがされている可愛らしいものだった。
夕食がまだだったので、まるまると太ったベッド&ブレックファーストの主人に近所のレストランを聞くと、うちはベッド&ブレックファーストだけどたまにディナーも出します。追加で$5いただきますが、もしよかったらいかがですか?今、ちょうど作り始めたところで30分もあれば出来ますよ。と、言われ、安いし今から外に出るのも億劫だったのでお願いすることにした。
一旦、部屋に戻る。TVをつけた。ローカル局の番組で、この地方の漁のドキュメントのようだ。
「エスパー」という種類の海鳥を使ったとても特殊な漁だった。漁師が小ぶりの漁船で港から沖へ出ていくと彼が飼っているエスパーが3~40羽も船の上空に群れてついて行く。
ポイントに着くと、漁師は船を停めて錨を沈める。彼が口でおならのような大きな音を鳴らすとエスパーたちは一斉に上空から一直線に海へ飛び込んでゆく。
海中カメラがその様子を捉えている。まるで弾丸のようなスピードで海中へ突っ込んでくるエスパーたちはその勢いそのままに海面近くを群れて泳ぐ魚たちをその鋭い嘴に突き刺して捕獲する。あるいは嘴をほんの少し開けてその間に滑り込ませて捕獲しているものたちもいる。
魚を捕らえたエスパーたちはすぐさま海上へ飛び出して、上空から器用に魚を船のかんばんに落とす。そして身を翻してまた海面へ突入してゆく。
船のかんばんは瞬く間に大量の魚たちで埋め尽くされる。
ちょうどそこまで観たところで階下から呼ぶ声がした。
お客さ~ん、夕食の用意ができましたよ~。
一階の食堂に行くともうディナーの用意が整っていた。6人掛けのテーブルに皿とフォーク、ナイフ、スプーン、ナプキンのセットが二人前用意されていた。主人がキッチンから両手に料理の乗った皿を持って、大きなお腹を揺らしながら出てきた。
今日はお客さん一人だけなので私もご一緒しようと思いましてね。ご迷惑じゃなければ。
おれは、別に構いませんよ。と言った。
主人はキッチンと食堂を往復して次々に料理を運んできて、最後には大きなデキャンタに入ったワインまで持ってきた。
魚介料理が多く、ハマチのような魚の大ぶりな切り身のマリネ、白身魚を揚げて酢漬けにしたもの、スズキのような魚の焼き物、揚げダコ、えびの酒蒸し、ホタルイカの海藻サラダ、アスパラガスのマヨネーズ添え、ポトフ、それにパンとバター、それから赤と白ワイン、という豪勢な料理が並んだ。
おれは驚いて、こんなごちそうで$5なんですか?と聞くと、
料理は私の趣味みたいなものですから、食べてもらえると嬉しいんですよ。と笑った。
さて、いただきましょうか。と言いながら主人はエプロンを外し横の椅子の背もたれにひっかけると、おれの対面に座った。
もしかすると、と思って、主人に聞いてみた。
先ほど、テレビでこの地方の漁のドキュメンタリーを見たのですが、この料理のどれかがエスパーという海鳥を使った漁で獲れる魚ですか?
ええ、この白身魚がそうです。今日は揚げて酢漬けにしてみましたが、焼いたり蒸したり、それから日本風に刺身や寿司にしてみうまいもんですよ。ここの海でしか獲れない魚です。
ひとつその魚を食べてみると、今まで食べたことのない味だった。
ずいぶんと甘みがあって、柔らかいがほんの少しだけコリコリとした歯ごたえがあった。酢漬けも程良く、いくらでも食べられそうだった。
とても美味しくて、腹も減っていたので思わず立て続けにみっつも食べた。
主人はそれを見て嬉しそうに、いかがです?と聞いてきた。
とても美味しいですね。初めて食べる味です。と言った。
主人はますます嬉しそうに、そりゃあ、よかった!他の魚もうまいものですから、どんどん食べて下さい。ワインもぜひどうぞ!と、グラスになみなみと白ワインをついでくれた。
このワインもね、この地方独特のものなんですよ。なんといっても白が格別なんです!
一口飲んでみると、本当に美味しかった。とても軽く明るい味で飲みやすく、どの料理ともよく合った。
主人はよく早朝に港へ行き、その日の水揚げで気に入った魚があればその日のディナーにするらしく、何年もここの漁師たちとの付き合いがあり、この地方の魚と海にだいぶ詳しかった。
その白身魚は「フルシアンテ」と呼ばれる魚で、台所から実物を持ってきてくれたが、見たことの無い魚だった。
頭が小さめで胴がぷっくりしており尾が細身で少し長く、イワシのようにほのかに緑がかった銀色で、ピカピカと光っていた。
匂いを嗅いでごらんなさいと、魚を鼻へ近づけて嗅いでみると、柑橘類のような甘酸っぱい香りがした。
それから、主人はこの地方の興味深い海と魚の話をたくさん聞かせてくれて、おれは料理も食べ過ぎなほどたくさん食べて、ワインもたらふく飲んだ。思いがけず大満足なディナーとなった。
正直、この国でこれほど見事な料理を食べれたのは初めてだった。
もちろん、高い金を出してミシュランの星がついたレストランに行けばうまいものが食べれるけど、これほど気やすいベッド&ブレックファーストでこんなに素晴らしいディナーを食べられるとは驚いた。
腹一杯で部屋へ戻り、ベッドに横になってTVをつけた。
ずいぶんと古そうな映画を放送していた。ぼんやりとそれを眺めているうちに、飲み過ぎたワインのせいもあって、あっけなく寝てしまっていた。
おれは食いしん坊なので、小説によく食べ物が出てきます。
そうですね〜!
おれもどこかの地方や国へ行くと、やはりその土地の地元料理を食べたくなります(^-^)
普通にホテルで食事をとるより、こういう風に地元の郷土料理を食べて、その土地の人とお話しながら出来る食事って最高ですね^^