小人と黄色い一日 (9)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/08/23 09:08:55
今日は黄色い一日だね。
ミルは開け放った窓の外をながめておれに言った。
家の前の湖のほとりに咲く花と木々と、があがあ言いながら歩いていくあひるの家族もみんな太陽の光に照らされて、たしかにあたり一面が黄色く華やいでいた。
結局のところ、彼女がどこから来て、そしてどこへ行くのかなんてことは本人にもわからないことであった。
しかしそれはおれたち人間や生き物すべてに言えることなんだ。
彼女はそれを象徴しているかのようにはかなく見える瞬間があり、そのつどおれは彼女を手のひらで抱きしめた。
東の国では戦争があった。
南の国には飢餓があり、北の国では圧政があった。
そんなことをテレビで見るたびに彼女は泣いていた。
自分の身体が痛いんだ。と言った。
しかし、それ以外の日常では彼女はとても元気でやっぱりいつも歌を歌い、踊るのが好きだった。
もちろん、食べることも大好きで、最近ではボッツェリーニのレストランでみんながびっくりするほどよく食べた。
大の男の一人前の料理をたいらげてしまうのだ。
おれは心配になって、病院へ行って、君の身体を見てもらおう。だって、こんなに小さな身体でそんなにたくさんの食べ物を食べるなんておかしいじゃないか。と言った。
しかし、彼女は笑って問題にしなかった。
お医者さんにはぼくの身体のことはわからないと思うよ。
それに、さくたちと違ってぼくは自分の身体のことをなんだか ’テーブルの上に置いて一つ一つを手に取る’ みたいにわかるんだ。
と言った。
ミルの身体は食べ物を身体すみずみぜんぶと、心ですら吸収してしまうらしい。
ボッツェリーニの料理は、心にとってもすごく美味しくてたっぷりと栄養のある料理。
だから、こんなにたくさんの量を食べられるんだよ。
とミルが言ったとき、ボッツェリーニは嬉しくてしょうがないらしく、涙ぐんでとても食べきれないほどの料理をまたたくさん運んできた。
ローレンスもまたボッツェリーニのレストランが気に入ったようで、ここに滞在している2週間、毎日のようにおれたちと一緒に通った。
ボッツェリーニも常連の客たちもローレンスを喜んで迎え入れた。
そしてローレンスがメリーと暮らした話をいつも興味深く聞き入っていた。
ときに涙し、笑いながら、彼を囲んでみなで話を聞き、料理を食べ、酒を飲んだ。
ローレンスがこの街を経つとき、みんなさみしがって今度はみんなでフランスへローレンスに会いに行こうと乾杯した。
ミルは小さな身体からどうしたらそんな量が出るのだろうというくらいたくさんの涙を流して、小さな水たまりをテーブルの上に作った。
おれもローレンスともっと一緒にいたくて、おれたちは彼に一緒にここで暮らそうと引き止めた。
ローレンスは目に涙をためて、こんなに楽しい旅行は本当に久しぶりでした。
でも、私はメリー・リリアンと暮らしたフランスへ戻ります。
アルルの丘の上にメリーのお墓があって、それを定期的に掃除することで彼女に会いにいくことができるんです。それもまた、私のひとつの生き甲斐なのです。
また近いうちにみなさんと会えることを楽しみにしています。
と深々と日本式のオジギをして、帰っていった。
面白いことにローレンスはおれたちと出会ってから、どうやら日本式の生活の仕方や文化にとても興味を持ち、なにやら研究しているようだった。
アルルに戻る途中、またオルセー美術館によって、日本の美術品をじっくりと見物しに行くと言っていた。
もしかすると、人それぞれにぴたりと合う文化というのは自分の生まれた国のものだけとは限らないのかも知れない。ソーサーとカップがばらばらに世界中に散らばっているみたいに。と、ぼんやり思いながら彼を見ていると、
ローレンスは、今度は忍び込むのはよしておくよ。とおれたちにウインクした。
今日はローレンスが帰って、3日後の朝だ。
黄色く輝いている外へ出た。
湖のほとりで二人、並んで座って、ぼうっと辺りを眺めるでも無くただそこに存在し、感じてた。
ミルは愛について話した。
例えば、尺取り虫とそれをついばんでゆくカイツブリのそれぞれが保有する愛、土に含まれている愛と空に薄く濃く広がっている愛、テラスに置いてあるテーブルの足とそれを登っていくアリの愛。
おれたちが普段感じたり考えたりしているおぼろげな愛や雰囲気でイメージしている愛とは違い、彼女が感じ取れる愛は、とてもくっきりと鮮やかなものであった。
おれたち人間は彼女のようにそこまで明確に愛を感じ取れるものだろうか、と思った。
彼女には愛が色と形を持ってくっきりと見え、触れることのできるようなものみたいだ。
おれはとても面白く彼女の話を聞いた。
ときに質問して、彼女に、さくって、そんなこともわからないの?とバカにされながら。
それで、おれはくやしいので魚の釣り方について講釈してやった。
彼女もまた興味深くおれの話を聞いた。
たまに質問されると、おれは、ミルって、そんなこともわからないの?と彼女をバカにしてやった。
いいですね、入道雲、好きです(^_^)
そうですね。
おっしゃる通りかも知れません。
そろそろ、みんなで本当に協力しなければならない時なのですが、いまだに、ここは我々の土地だ!とか、ものすごくくだらない権利欲で戦争なんかしてるバカがいますけど、いつの時代の人ですか?って感じ。
パンデミックの時に、すごく思いました。
今こそ世界中のみんなが協力するべき時だ。って。
だけど、おれの期待とは真逆に人種差別やヘイトクライム、そして、戦争なんかが起こって、マジでうんざりしました。どこまで人間は愚かなんだ?と。
一回、人間は滅びたほうがいいのかも?なんて、ことも思ったりすることもありますが、でも、やはり、一般のレベルでは自然のことを真剣に考えて行動してらっしゃる方々や、ダイバーシティを尊重しようとしている方々もたくさんいらっしゃって、そうゆうのを見ると、人間バカだけではないのだな。と希望も持てます。
青空に真っ白で巨大な雲、、先日は大きな虹も見えました
自然を敬う気持ち大事だと思いまする
このところの世界の異常気象、、何かしら地球が警告している気がしてなりません
経済優先の世界、そろそろ終わりにしていく時期なのではないでしょうか?
本当に大事なものは、人間の眼にはもう見えていないのかもしれません
へえ〜、そんなふうに思うんですね。
なるほど。
個人的には、これから先の人間は、便利をもっと進化させていくけれど、でも、それだけじゃダメなんだって最近気づき始めているので、今後は、便利と自然を上手に融合させる術を見つけていくのではないかな?と思っています。
ただ、ガンガン高層ビルを建てれば良いのではなく、どうすれば、地球に無理なく、そして、上手に自然の力を借りながら、便利になれるのか?ってことにフォーカスしていくような気がします。
てゆうか、そうじゃないと、もうそろそろ無理だよな〜って思っています。
もしかしたら、haticoさんはミルとお話ししたら、良いともだちになれるかもですね(^-^)
たぶん、ミルはそんなふうに自分の思ってることや感じてることを言葉ではっきり言ってくれる人が好きだと思うんです。
ただ、彼女はおてんばなので、はしゃぐとちょっとうるさいので、お気をつけ下さい(笑)
ダンスは本当に素晴らしいので一見の価値ありです!
人間はいろんなことを便利にしていくことと引き換えに、
あいまいなことや自分の身体を通して感じる何かとかを
(脳みその隅っこに?)しまい込んでしまったのかも
しれないですよね
でも私は思いますよ
便利さや進化も頭打ちで、これから長い間少しずつ退行して
昔のように人間は戻っていくんじゃないかなって
ありがとうございます!
確かに、そうゆう感覚っていつも新鮮ですよね(^-^)
とてもいいですね。
子供の頃、裸足でヒンヤリした土の上に立った快感を思い出しました。
でも、人間はあれやこれやでいつの間にか自分から自然の一部であることを忘れてしまっていて、ミルのように自然をもっと感じていかないとな〜、と、この小説を読んでいて思いました。
はい、全然大丈夫です。
あれだけでかい美術館で、捕まった時の警備員さんと出会う可能性は低いし、まあ、ローレンスさんはしれっと入っていって、ゆっくり日本の美術品を見て楽しんで帰っていたそうですよ(^-^)
湖の景色の描写が目に浮かんでくるようで、素敵です。
ところでローレンスさんは、警察沙汰になったオルセー美術館に普通に入らせてもらえるのでしょうか・・・日本だと出禁になってそうでちょっと心配(笑)