小人とイタリアンジェラート (8)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/08/21 10:00:13
薄暗い牢屋の中でおれたちはひそひそと話していた。
ミルはおれの襟元に隠れて、看守に見つからないようにしながら。
運良く牢屋はローレンスとおれの2人部屋だった。
残念ながら、ローレンスの家で5日間過ごした後の帰り道、本当にオルセー美術館に忍び込み、警備員に見つかって今度はおれたちに気づかれないように警察に通報されて、気がついたら物々しい警官たちに囲まれていて、その場で逮捕されたのだった。
その際に、ミルはすばやく隠れて、彼女の存在は気づかれることも無く、もちろん彼女だけは逮捕されないですんだ。
(もっとも彼女に人間社会の法律が適用されるのかは疑問だけど)
おれたちが警察署に連れて行かれて、取り調べを受けた後、彼女はおれが身体検査を受けるときにはローレンスのシャツの中へ。
ローレンスが身体検査を受けるときにはおれのシャツの中へとうまく隠れ通せた。
ミルはこんなときなのに、くすくすと笑っていた。
だって、あのときのふたりの顔ったら。
さくはまるっきり間抜けな顔で口をぽかんとあけて、ローレンスなんてロバみたいにすっかりあわてちゃって、ほんとうにおかしかったよ!
ローレンスは、君たち二人はまるで昔私のクラスにいた出来の悪い生徒たちにそっくりだよ!と笑った。
知らなかったけど、ローレンスは若いとき教師だったんだ!
メリー・リリアンと出会ったあとに小説家になり、ある時期、教師もしていたらしい。
それにしても、元教師、小説家の文化人がオルセー美術館に忍び込んで逮捕されちゃうなんて、日本だったらワイドショーのニュースになってるところだ。
フランスではどうなるのか知らないけど。
警察署の牢屋の中で一晩泊まって、次の日に罰金を支払い(高級レストランでフルコースを1人前きっちり食べたくらいの金額だ。。)初犯ということもあり一応、不起訴処分厳重注意だけで、前科をつけられずに釈放された。
特にローレンスの経歴(フランスではそこそこに名前の売れた小説家だったらしい)と紳士的な態度が再犯の可能性は少ないと見なされて情状酌量の余地をもたらしたみたいだ。
警察署を出るときに一人の警官がローレンスにもう小説は書かないのか?って聞いていた。たぶん彼の小説のファンだったんだろう。
牢屋にとまった一晩のことはここには書かないよ。
コンクリートの冷たい床のたいして面白くもない一晩だったからね。
ただ、隣の房の酔っぱらいの男が一晩中騒いで眠れなかったから、おれたち3人とも寝不足で、警察署から日中の晴れ渡った空の下に出たときは目がしぱしぱしてまともに立っていられないくらいだった。
目の前の通りにアイスクリームの屋台があった。
そこでイタリア式のジェラートを3つ。
おれは、2つでいい。おれのをミルに分ければいいんだよ。ひとりでそんな量を食べきれないだろう?と主張したけれど、ミルは、ぼくはひとりでひとつ食べるんだ。と決してゆずらなかった。
ローレンスはそんなふたりをよそにさっさと3人分のジェラートを買ってしまっていた。
ローレンスの見る目(こんな場合にこんな言葉は大げさだけど)は確かで、ミルにはラズベリー、おれにはバジルのジェラートを選んでいた。
どちらもおれたちの大好きな味だ。
ローレンス自身はブラッドオレンジのジェラートをなめていた。
3人でそれぞれのジェラートをひとくちづつなめてみた。
どれもひんやりとやわらかくって、なんだか30分前に警察署の牢屋にいたことが嘘みたいに思えるくらいご機嫌になっていた。
ミルは本当に自分の身体の3分の2くらいの大きさのジェラートをひとりでたいらげた。
一体、ジェラートはミルのからだのどこへ消えていったんだろう?
さて、家へ戻ろう。
ミルはローレンスがいることで親戚が家に来たこどもみたいにはしゃいでいた。
実は内心、おれもそうだったんだ。
はい、話はフランスですが、イタリアにバジルのジェラートっていうのがあるらしくて、おれも食べてみたいです。
もしかしたら、N Yや東京なら、イタリアの支店とかがあって、食べれるかも知れないですね〜!
日本はそうゆうの厳しいですもんね!
はい、彼女はすばしっこいので!
ミルちゃんが無事警察に見つからなくて良かったです。