小人と朝ごはん (7)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/08/20 08:05:04
音楽にゆられながら、心地よく目が覚めた。
1階の台所でローレンスが軽いジャズをレコードでかけながら、朝食の準備をしているみたいだ。
たまに、きゃあきゃあなどというやかましい声が聞こえるのはミルがもう起きて一緒に料理を作っているみたいだ。
手伝っているというより、遊んでいるようにしか聞こえないけれど。
昨日の夜、ローレンスは小人についての自分の考えを話してくれた。
それはまるで夢のような話ではあったけど、でも彼にとっては、そしてミルとおれにとっても事実なのかも知れない。
ローレンスは小人と26年間もの間一緒に暮らしたという。
小人の名前はメリー・リリアン。
彼女の名前もローレンスが思いついて、女神からとったのだという。
フランスの女神、メリジューヌだ。
リリアンと今から40年も前に出会って、26年間暮らした。
ローレンスはリリアンが死んだとき、56歳であったけれど、リリアンは年をとらなかったという。
リリアンもまたミルと同じように出会う以前の記憶を無くしていたけれど、しかし彼女はふとしたときに何かの記憶を思い出すときがあったらしい。
彼女は、私は長く生きすぎているわ。と言ったことがあるという。
ローレンスは不安に感じ、なぜそう感じるんだい?と聞くと、
彼女は、わからないわ、でも、ただそう感じるの。
私の記憶はもう苔むしてしまってほとんど見えなくなっているけれど、太古の記憶が見えるときがあるのよ。
と答えた。
リリアンには不思議な力があった。
それは彼女のまわりにいつしか生き物が宿るのだ。
彼女が立っている、またはベッドで寝ている周囲にいつの間にか草が生えていたり、あるときは小鳥のたまごがあるときもあったらしい。
リリアン自身、なにも意識せずに、いつのまにか気がつくとそこに生命が宿っているのだ。
ローレンスはこう仮説した。
彼女は生命の源のような存在ではないか。
そして、彼女はこの世界に生命をもたらした一部であり、現代の世の中にはもうすでに必要の無い存在となってしまったのではないだろうか。
だからこそ、彼女は死んだのだ。
ミルとおれはその話を熱心に聞いた。
しかし、ミルにそのような力は今のところ見たことは無い。
ローレンスは、ミルもまた何かの源や精霊、妖精のような存在であるけれど、もしやその力は今はまだ眠っているのではないか。リリアンの力を見たのもまた出会ってからしばらくしてからのことだったからだ。
つまり、彼女たちのような存在は大きな周期で眠りと発生を繰り返しており、今はまだその眠りから覚めたばかりなのではないか。と仮説した。
昨夜は深夜3時過ぎまでそのことについて話をして、ベッドに入った。
ミルはなにか満足げな表情ですぐに眠りについたけど、おれはずっとそのことについて考えてなかなか寝付けなかった。
ミルが一階から大きな声でおれを呼ぶ。(身体は小さいくせにやたらめったらでかい声を出すんだ。)
おうい、さく~~~~~~!あさごはんだよ~~~~っ!!
おれはだらだらと階段を降りて、洗面所でうがいをする。
背後でミルがまた騒いでる声がする。
顔を洗って、台所のテーブルへ座る。
テーブルの上には、朝から山盛りの食事が用意されていた。
ミルが作りすぎたのだという。
ゆげをあげた巨大すぎるオムレツがテーブルのまんなかにでーんと置かれている。
その上にはケチャップで大胆でアブストラクトな模様が描かれており、皿からもはみだしている。
ミルが間違ってキャップごとケチャップをぶちまけてしまったらしい。
大ぶりのマグカップにはたっぷりとカフェオレがつがれている。
クロワッサンがバスケットにたくさんと、いろいろな種類のジャムのびんも並んでる。
ソーセージはぱちぱちにふくらんで今にも皿から飛び出しそうだ。
ソーセージの横にはザワークラウトとマッシュポテトが山とつまれていた。
ミルはうれしそうにおれにウインクをして、ローレンスに日本語で「いただきます。」と言った。
ローレンスは首をかしげて、それは何のお祈りだい?と言った。
日本語で料理を作ってくれた人に感謝の気持ちを表すお礼の言葉よ。とミルが言うと、ローレンスはミルにむかって、イタダキマス。とおじぎした。
それを見て笑っているミルの左のほっぺにはケチャップがひとかけらついていた。
おれはそれを見て、なんだかミルが精霊だろうが神様だろうがどうだっていいや。と思って笑っていたんだ。
ふふ、ミルの作ったバカみたいにでかいオムレツ食べます?
味はまあ、結構美味しいらしいけど、見た目の迫力がすごいそうです(^_^)
アメリカでは敬虔なキリスト教徒の人とかはお祈りするんだろうけど、おれが接してきた人たちはほとんど何も言わないで食べ始めますね〜。
雑談しながらって感じです。
海外ではそのかわりにお祈りしたり?
やまもりオムレツ食べたくなった!
読んでいただいて、ありがとうございます!
現実世界に不思議なことが混ざっていくようなストーリーをローファンタジーっていうんですね〜。
へえ〜、知らなかったです〜(^-^)
軽妙な語り口のローファンタジー、とても好きです。
ミルとサクに幸多からんことを。
コメント読んでいて、ちょっとうるっと来ちゃいました。
ミルとさくみのことを実在している人間と同様に幸せを願ってくれるなんて、嬉しすぎます!(涙)
彼らに伝えておきます〜!!
確かに。
もうずっと前に書いたから、ちょっとうる覚えだけど、そのうち、少しづつそのことにも触れられていくような気がします。
たぶん。。
おれも、ほとんどみなさん同様、この小説の読者的感覚で、これを載せてるんです(^-^)
すごく久しぶりに読んだから、自分の書いたものというより、新しい小説を読んでる感じなんです〜。
昔漫画で人造人間(女性)に恋した人がいて、でもその人造人間は結構長く生きていたのでもう機能を果たせず、最後は機能停止でお別れしてその男性は老人になってもその人を想って独り身のまま…っていうお話があったのを思い出しました。
その人達は短い間しか一緒にいれなかったのですが、ミルちゃんとさくみさんはローレンスさん達と同じ位一緒の時間を過ごせると良いなと思います。
パワフルなミルちゃんの力は、なんでしょう?