小人のケンカ (2)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/08/13 20:36:53
小人はいつも夢を見ていた。
自分以外の小人と出会うこと。
それと、自分も他の人間たちのような「大きな人」になること。
夜、二人でお酒を飲む。
彼女は何度かそのことについておれに話した。
彼女のその夢をかなえてやりたかった。
おれはなんとか彼女が普通の人間になるその方法は無いか、また、他にも彼女のような小人がいないのか、ということについて情報を得たくてインターネットで調べた。
しかし、生まれつき人よりも小さくしか成長しない障害を持った人のことや、もしくは作り物のファンタジーの世界の中での小人や妖精のこと、についての情報ばかりだった。
本当の小人についての情報のように書いているものは、何かうさん臭い、ネッシーやUFOと同じような扱いのものばかりで信憑性に欠けていた。
ある日、ふたりで街の本屋に行った。
もちろんその国の言葉で書いてある本ばかりが置いてある。
日本語のようにすらすらとは読めないが、そのころになるとふたりともその国の言葉を少しは読めるようになっていた。
そのひとつに、「私は妖精と暮らした。」という見出しの背表紙を見つけた。
筆者は、ローレンス.ブコワスキーといった。
本を手に取って開いてみた。
エッセイのようなものだろうか?
イラスト付きで南仏での暮らしが書かれている。
本の最後に載っているあとがきを見ると、妖精と共に暮らし、妖精はすでに亡くなり、自身ももう年老いた。といったことが書いてあった。
挿絵に使われているイラストは自分で描いたのだろうか。
何か実に説得力のある線で描かれた生活のデッサンや、妖精のイラストであった。
これがフィクションだとしても、とても興味をそそるもので、レジへ持っていった。
彼女もぜひ読んでみたい。と言った。
帰り道、石畳のいつもの通りを歩いて、行きつけのレストランへ。
石畳の一つ一つがつやつやと夕暮れに輝いて素敵だった。
ここの店主もウェイトレスも、なじみの客たちもみな、おれたちにとても気さくに接してくれる気のいい人たちだ。
料理もとびきり美味い。
今日は何にする?
そばかすのあるかわいいウェイトレスが注文を聞きにくる。
赤ワイン、それからボッツェリーニ(ここの店主の名前だ)の特製スパゲッティ、あと、ハーリング(にしんの酢漬け)を頼んだ。
ウェイトレスはいつものようにテーブルの上に、小さなミニチュアのちゃぶ台と椅子、そのちゃぶ台の上にこれまた小さな小さな食器とワイングラスを丁寧に並べた。
それらは全ておれが作って、この店に置いてあり、おれたちが来ると出してもらうのだ。
小さなスプーンとフォーク、ナイフまである。
彼女にはあともうひとつ、大好物の牛のほほ肉の煮込みもお願いした。
おれたちはいつも料理をふたりでシェアした。
彼女もおれもこの国の言葉をだいぶ覚えたし、店の人たちもおれたちをよく知ってくれているので、今では夜中までみなで酒を飲みながら話すこともしばしばあった。
いつでも、彼女がみんなの輪の中心にいた。
彼女は、小人である、という珍しさを差し引いても、何か特別な求心力のある女だった。
ときに歌い、ときに踊り、ときにはハープのような弦楽器(これもおれの自作だ)まで弾いてみなを楽しませた。
みなを楽しませることは彼女にとってもとても楽しいことであったようだ。
一度だけ、店内でケンカをしたことがあった。
おれと彼女ではない。
彼女と他の客だ。
大柄なでっぷりと太ったそのひげ面の男は、いやらしい目で小人を見ると、にやにやと笑いながら、ヘイ、ジャパニーズ!彼女のプッシーはやっぱり小さくて具合がいいのか?と真っ赤に酔っぱらった顔でわざとみんなに聞こえるように大声でおれに尋ねた。
その刹那、おれがその大男の言葉に怒るよりも早く、みんなの耳に大男の言葉が届くのとほとんど同時、つまり音速のスピードで、彼女は、その大男の肩に飛び乗って、試してごらん!と言いながら、持っていた肉切りナイフでそいつの鼻の頭を素早く切り裂いた。
大男は、ぎやーーーーーーーー!!!、と凄まじい声で叫び、鼻を押さえながら椅子を倒してひっくり返った。
鼻の頭が一文字にぱっくりと裂けて、血がぼたぼたと滴っていた。
彼女はそれでも気持ちが収まらないようで、おい、てめえ、ぼくのプッシーを試してみろ、って言ってるんだ!とわめきながら、なおもナイフを振りかざして床で転げ回るその大男に攻撃しようとしていた。
あわてておれは手を伸ばして彼女を捕まえた。
しかし、彼女が振り上げたナイフがおれの手のひらを切った。
彼女は驚いて、だいじょうぶ!?、と泣きそうな顔でおれを見た。
おれは笑いながら、これくらい何てことないよ。と答えた。
彼女は本当にごめん。と何度も何度もおれに謝った。
鼻を切られた大男は店の男客たちに外に連れ出されてタクシーに乗せられ、病院へ連れて行かれた。
彼はその後二度とこの店に来なくなった。
彼女は床に割れて散らかった料理や皿、割れたグラスを見て、店主やウェイトレス、他の客たちにも謝った。
ごめんなさい、ごめんなさい。
必ず弁償するわ。
でも、誰も彼女を責めなかった。
みんな笑いながら、あいつがあんなことを言うのが悪いのさ。気にすることはない。
と言った。
店の店主は、
さあ、うまい料理を食って機嫌を治してくれ。
と言って、いつもより大きな皿に牛のほほ肉の煮込みをたっぷりと入れて持ってきてくれた。
彼女はみなに愛されていた。
そんなふうに推測までしていただいて、嬉しいです〜(^ー^)
そうですね。
彼女は喜怒哀楽があって、しかも結構単純で激しいみたいですね。
でも、そんなストレートな性格と、不思議と惹かれてしまう彼女の魅力に、レストランのみんなが彼女を好きになってしまうようですね。
確かに。
純真だと思います(^ー^)
かなり喜怒哀楽が、はっきりした小人の「ぼく」の存在は
周囲にまで認めてもらっている・・と言うのが、とても不思議であり
この小説の中では、自然に感じられます。
無礼な男に刃を向けた所が、ちょっと怖い。
だけど、「ぼく」は、どこから来たのか、来るまでは何をしていたのか?って
考えると、身分があったんじゃないかなぁ。
それだけに、無礼は、とことん許せない!
そんな風にまで、私の中で、「ぼく」の過去を連想してしまう。
皆から好感をもたれるのは、
迷惑をかけた事を、率直に謝罪する、その純真さ。
彼女は、もしかしたら、人間界の汚れた部分を少しも持たない
「純粋」の精なのかなぁ・・・
ふふ、不幸にしないでね。なんて、おっしゃってくれて、ありがとうございます(^ー^)
そんなふうに彼女に気持ちを入れていただけて、とても嬉しい限りです!
また載せますので、気が向いたらぜひお読みいただけたら幸せです。
確かに!
自分で意識してないけど、言われてみれば確かに自分の旅したところの食べ物とか、風景とかを自然とイメージしながら書いてる時があると思います。
特にこの小説の舞台はヨーロッパのどこかの国なんです。
ただ、どこの国かはわからないのですが、個人的には北欧あたりにあるこの小説内にしか実在していない国かも知れないと思っています。
何となくハッピーエンドにならない気がしてどきどきです。
小人さん、不幸にしないでね。
この先どんなことがあるのかな?楽しみです
ケニーさんが旅で経験したこともちょこちょこ
出てくるのかなハーリングとか(*'ω'*)
私も小人のことが好きになってきました
読んでいただいて、ありがとうございます!
はい、彼女は自分のことを”ぼく”と言ったり、役人に中指立てたり、税関通るときに舌出したり、そして今回のケンカだったりのことからわかるように、彼女はちょっと攻撃的でやんちゃな性格で、茶目っ気があるんです。キレると手に負えないのだけど、暖かい愛情を心の底に持ってます。
あ、てゆうか、作者がこんなふうに登場人物を解説しちゃうのって、野暮かも??(笑)
小さい彼女が人前に出ると、マスコミに売ってお金を儲けよう、というパターンになるお話が多い気がするのですが、ここでは皆に受け入れられているのが素敵です☆
しかし彼女さん、小さいながら戦闘能力が素晴らしいですね~。鼻を切るのはさすがにやりすぎかもしれないけど、かなり侮辱した発言ですから、これくらいしないと酔っ払いには効かないかもしれませんw