Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー107

桜と環の先を走っていたクラウンが国道2号線西行きで突然ウインカーを出して右折レーンに寄せた。クラウンは一時停止線をかなり越えて止り、前輪をいやに右に切っている。環は相手がUターンしようとしているのに気付いた。
「ははっ 奴はUターンして表から回る気や・・・」
「どうしてわかるの?」
環は自分も急ぐ時は同じ様にハンドルを切ることがある、と説明した。
「対向車が来ないうちにUターンして一気に加速しようという魂胆やな。」
「へえ、環も常習なのね・・」
「へへっ ちんたら走ってられへんからなあ。油を売っとうとウチの親はうるさいねん」
そう言いつつ環はドッジを右折レーンに寄せる。生憎、クラウンのすぐ後ろにつくことになり、向こうから見えないように、桜は座席に身を沈めた。もともとドッジの方が車高が高いのと、どうも、運転手は対向車のギャップを見つけようと前方に気を取られてルームミラーを見る余裕がないようだ。切れ目なくつづいてていた対向車が途絶えた一瞬に、クラウンはタイヤをきしませて、ターンした。
「じゃあ 行き先はわかったんだから追い越しちゃいなさいよ」
「ああ、ええで。ここいらは俺の庭みたいなもんや」
環がにやりとした。要達が山道に入り、ボチボチ無線も通じなくなりかけていた。
「クラウンは表六甲に行き先を変えたみたい。ドッジはクラウンを追いかけるわ。」
桜の報告が、要とアキラのヘッドセットに入った。
「了解」
二人が同時に応える。
 クラウンから何秒か遅れでUターンした環はドッジのスピードをぐんぐん上げていった。やがて本田のクラウンの影が200メートル手前に見えてくる。
「大型にしたら、えらい飛ばしとうやん・・・」
環が感心したようにつぶやいた。その声に、さっき、神戸は自分の庭だと言った勢いがなくなっている。上り坂ではクラウンのショックは柔らかく車体がロールして乗り難い。しかし、本田はそれをものともせずにアクセルを踏み込みコーナーに突っ込んでいくのだ。ドリフト走行よりグリップ走行を得意とする本田はアクセルワークと寸前まで遅らせたブレーキングで意のままに右に左に車を走らせていた。
「こいつはできる・・・」
と気付くとともに、環は軽い気持ちでハンドルを握った事を少なからず後悔した。隣に女の子を乗せている事が、何よりも気にかかる。ドッジのスピードがじりじりと落ちはじめた。
「環、あいつを追い越せるよね?」
桜が隣から覗き込むようにして念を押した。
「そりゃあ・・・」
クラウンの運転手の腕に圧倒され緊張している環は、気もそぞろで、うやむやにしか答えられない。それが、平静心を欠いていると桜の目に映った。
「環 しっかりしなさい」
『パシッ』
いきなり平手が環を襲った。
「!」
もう一度平手が飛んできた。二度目の平手でようやく環の目に正気が戻ってきた。
「な、なにすんねん!」
「遊びじゃないのよ!あんたがやらなきゃ 私たち皆がやられるのよ」
「そ、そんなこと、わかっとうわ・・・」
その心もとない返事に桜は唖然とした。素人の環には初めから無理だったのかもしれない。
「いいわ 私が運転するわ。路肩に止めて。」
「あほ、こんな事、桜ちゃんにさせられるか! 」
ここ1週間ほどの間に桜に淡い恋心を抱いていた環は思わず顔を赤くした。
「くそっ 俺がやったる。ここで男を見せらな・・・」
桜は一瞬、言葉に詰まったが、すぐに口元に笑みを浮かべ、
「そう言ったからには、しっかり働いてもらうわよ」
「おお、みとれよ。しっかり働いたるやんか」
オオム返しに答えた環はハンドルを握りなおし、アクセルを踏み込んだ。

クラウンが、要達を表六甲から挟み撃ちにしようとしているのはわかっている。
「何とか、それを阻止しなきゃ・・・」
クラウンの運転手はなかなかの腕のようだが、環とてドライビング・テクでは引けを取らない。しかも山道なら4駆の方が有利だ。やっと、環が実力を出し始めて、桜は考えた。
「追い抜いたら2コーナーぐらい引き離せる?」
「え?」
環は桜を見た。できない事はないけれど、その目的が解らない。
「ちょっと、思いついたんだけどさ・・・」
桜はそういいながら、ポケットから三角巾を引っ張り出してきて器用に右腕を覆った。
「要が、プロの殺し屋相手だって言うから、ドッジの荷台に、いろいろ乗せてあるんだけど・・・」
「いろいろって?」
「そうねえ、ロープとか、フランジとか、スコップとか・・・」
「エライ手際がええなあ、車の手配から装備まで、これじゃMI6のミスターQやん」
環があきれたような顔をする。
「後ろに移ったらわかるわよ。」
桜が笑った。
「後ろで何すんねん?」
環が聞き返した。
「あのクラウン、あたし達でやっつけちゃうのよ」
環を見つめる桜の目がいたずらっぽく笑っていた。桜が手短に思いついた作戦を話すのを環は暗い山道のセンターラインに沿ってドッジを走らせながら、うん、うん、とうなずいていたが、
「そう、うまくいくかなぁ?」
とだけつぶやいた。桜が何も答えないので、環がちらりとその顔を横目で見ると、ニコニコと笑っている。
『この少女は俺を信じているんだ・・・・』
環は腹を決めるしかなかった。
「しょうがねえなあ・・・。ちょっと荒っぽいで」

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2023/08/02 21:03
こんばんは(^-^)
ドッジで調べたら ドッジボールばかり出てきて なんでやねん!と思いました
アメ車で あってますか 
ドッジが走ってたら 即 振り返り 見つめてしまいます
環さんと桜さん どんな風に クラウンをやっつけるのか こうご期待ヽ(^o^)丿




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