学院大誘惑【1】ブランの生い立ち
- カテゴリ:自作小説
- 2023/04/03 17:02:19
ここは純喫茶「月桜(つきおう)亭」。マスター「ラハルト・ダーリン」と4人の女性店員が評判の店だ。
店の角っ子のボックス席でチーム「ムジーククインテット」の同窓会が行われていた。
クラシックなメイド服を着た店員「アユ・タカミヤ」が5人の前にコーヒーを置く。
「お待たせしました。マスターブレンドコーヒーになります。ごゆっくりどうぞ…」
「そっか、ルルカはブランが退学した後に入ってきたから知らないんだよね」ライムが話を切り出す。
「ええ、実際には何も…。噂は色々と聞いてますが…」と、ルルカ。
「へぇ、どんな噂?」ブランはルルカにそう聞きながら昔のことを思い出していた。
ブラン・ヨークは、セイレーン族の母親と人間の父親の間に生まれた「セイレーンハーフ」であった。
「セイレーンハーフ」だったばかりに、純粋種のセイレーン族や鳥人族には、疎まれ蔑まれひどい差別を受けた。
特に姉の「ノエル・ヨーク」は、自身の背中に生えている黒い翼のせいで異端扱いされた。
母親は名門セイレーン一族「ヨーク家」から勘当された。赤貧暮らしの末、家族は散り散りになった。
一人で生きていくためには何でもした。そうしているうちに、ブランの心は荒んでいった。
浜辺でブランはハーピー族の3人の男たちにいじめられていた。
ブランはもはや、やり返す気力も抵抗する気力もなく、ただただ嬲られ続けた。
「こらーっ!あなたたち!よってたかって何やってるんですかぁ!?」
「何だよ、人間の小娘!てめーには関係ないだろ!?」「あっち行けよ!」
「考えるのは死ぬほど面倒なので…みなさんまとめて穴だらけにしてもよろしいですかぁ?」
小柄な看護兵はどこからともなくガトリング砲を2丁取り出し、両手にジャキンと構えた。
「ヒィッ!?看護兵風情が何でそんな物騒なモン持ってんだ!?」
「はーい、すぐ済みますからねぇ~。痛いのは一瞬だけですぅ~」
「ヒャーーッ!」「に、逃げろーっ!」ハーピー族の男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「よかった…行ってくれて。実はこれ、弾入ってないんですぅ~」苦笑いする看護兵。
「なぜ…助けた?僕なんか助けてもらう資格も価値も…」死んだ目をしたブランは問いかける。
「大丈夫ですかぁ?体中傷だらけ…あっ!翼が折れちゃってますぅ~!」
ブランは薄れゆく意識の中、看護兵の声を聞いた。
「ん…、ここは…?」ブランは目を覚ました。
「あ、気がついた!ここはフツツカ魔法学院の保健室ですぅ~!」
「フツツカ…魔法学院?…ぐっ!」包帯だらけの体を動かすと痛みが走る。
「まだ動いちゃダメですよぉ~。傷口が開いちゃいますぅ~。あ!翼から血が…」
包帯を解き、血を拭い、薬を塗って、新しい包帯を巻く。適切な処置を施す看護兵。
「もう少し眠った方がいいですよ…えっと、お名前は?」
「…ブラン。ブラン・ヨーク」
「おやすみなさい、ブラン・ヨークさん」看護兵はブランの頭を優しく撫でる。
ブランは、なぜかとても安心して再び眠りにおちた…。
ーつづくー