Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


妄想②




行きつけのスーパーに行き 買い物カゴをレジ棚に載せた
ピッピッと商品がバーコードリーダーで購入済みのカゴに移されていく


年に何百回も同じ店に通うと レジが何台あろうとも
その時間帯 曜日 によって どんな(多分パート採用)担当員が
どこのレジに配属されているのかなんとなくわかるようになってくる
(もちろん変動はあるけど)

愛想のない苦手なおばちゃん 肩幅がやけに広いお兄ちゃん(多分社員)
元気でテキパキなお姉さん そそっかしいけど憎めないお姉さん etc.etc 


そんな中で 一人の女性が気になってしょうがなかった
内気 弱気 オドオド 30代後半だろうか 声は小さく 覇気がなく 
もう長年勤めてるはずなのに なんかあればすぐ謝って
でも仕事ぶりは別に申し分ない


私はこんな性格なので  2.3 回不自由な言葉で話しかけた
「ああ これ値上がりしましたね」とか「今日お店空(す)いてますね」とか


彼女は小顔でショートカット お顔のつくりは地味め(失礼!)
私の顔も覚えてくれてるみたい


私は父母の教えで常に頭を下げる
カゴを持ち込むときも ピッピッが始まるときも頭を下げる
支払いの選択も 頭を下げながら 現金払いを頼む
その度に彼女も頭を下げる


彼女はいつも一所懸命で おそらく旦那さんが家で待ってるのかな
そんな低姿勢で幸せなんだろうか とか余計な憶測を喚起させる




それまでは横にある現金払い機への移行をお願いしていた
どうしたことか
その時私は何故か初めてクレカでの清算を申し出た
どうしたことか 


クレカを自分の手でリーダーに差し込んだ
向こう側のディスプレイにどんな情報が現れたのかは詳細には知らない



その一瞬で彼女が身を固くしてディスプレイを凝視した
短くない そして長くもない そんな時間が経過した後 彼女は私に言った


表情が変わっていった 目が見開いていた 声が野太くなっていた
「GARAKUTA 様ですか?」
獲物を見つけた女豹のように その目が赤く光った 
もうさっきまでの 内気 弱気 オドオドさは霧消していた


「店長! 早退します!」
それまで小声しか聞いたことない彼女のアルトがストア中に響いた
周りの従業員たちも啞然としていた


「あの、、まだ清算が、」
「カードを抜いて! お買い物は明日でもいいでしょ!」


ヲタヲタしながら
多分ストアの従業員室と思われるドアの前まで連れていかれた
「ここで待ってて!逃げたら承知しないわよ!着替えてくるからね!」




その数分の間 いろんなことを考えた
まず思ったのは 明日も買い物ができるだろうということ
次に思ったのは  GARAKUTA という苗字が改めて珍しい名前だということ

そして 過去のメモリーの様々なファイルを脳内で検索し
思い当ることがないこと



次の瞬間 艶やかなピンク色の私服に着替えた彼女が現れた
「逃げなかったのねw 誉めてあげるわ」
地味と思っていた彼女の容姿は 180度変わっていた
貧相と思っていたストレートショートカットは素敵なボブに見えた
声には張りがあり 弱気な態度と見えた背骨は真っ直ぐになっていた

先ほど検索したファイルの中で一つが今さらながらヒットした
「逃げなかったのねw 誉めてあげるわ」
この口調が一致した


すべてから逃げていた当時の私






「ということは、、、」
擦れがちな私の声を遮りながら 「私んとこへ行きましょう
母から聞いたいろんなことを思い出させてあげるから」

「お母様は?」
事態のあまりにも急変した状況にうろたえながら私はささやかな反抗を示した

お店の時とはまったく違う強靭さで 彼女はブーツでターンしターンしターンし
両腕を拡げ 肩を挙げ  私の眼を覗き込んだ
次の瞬間 ふと弱気に顔を伏せた
「認知で施設にいるわ」


私も覚悟を決めた
『さあ 思い出を聞かせてもらいたいな』


初めて彼女は私に抱きついた





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.