Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー32

右足を引きずりながらアパートの外に転がるように飛び出すと、そこに原田が立っていた。要はとっさに逆の方向へ逃げようとする。
「待て。」
「それ以上怪我を重くする必要はない」
要は諦めて動きを止めた。要は泣いていた。思い通りに何もいかない。自由が欲しいと思っただけなのに、俺は一人では何も出来ないんだ。
「お前の考えてる事は俺にはわかっているつもりだ。」
原田が、近づいてきた。
「アキラがしゃべたんですか?」
初めて出来たたった3人の友達に裏切られたような気になっていた要は顔を涙でくちゃくちゃにして言った。
「アキラは・・・俺には何も喋っちゃいない。奴は男だ。」
原田はそういいながら要が肩からさげている荷物を取った。
「さぁ 帰るぞ。」
原田は、路肩に停めた車に向かって歩き出した。もう、俺にはどこも行くところは無い。結局一人では何も出来なかった。要はノックアウトで完敗したボクシングの選手のようにしな垂れてその後をついて行く。要を後ろのシートに押しこんで原田はドライバーズシートに乗り込んだ。車は静かに走りだす。
要は、ジーンズの両膝をぐっと握り締めながら、涙を堪えていた。あいつを殴った右拳が傷む。アキラの誤解を解けなかった自分への悔しさ。なぜあんな事してしまったんだろうと言う自責の念がその拳に込められていた。売り言葉に買い言葉とは言え、心にも無い事を言って大切な友と喧嘩別れをしてしまった。
「足の骨折はな、要・・・」
原田が目を前を向けたまま言った。
「・・・ちゃんと治さなければ、元には戻らん。」
「無理をして一生バイクに乗れなくなる事もあるんだ。」
要は2日ほど前からまた腫れてきた足首に目を落とした。
原田がポツリポツリと言葉をつなぐ。
「自分の道を行きたいなら、それでもいい。」
「だが、せめて足だけはきっちり治してからにしろ。」
要ははっとした。
そうだったんだ。原田がアキラに言ったのはこのことだったに違いない。足が治るまで、俺を店に帰してくれと頼んだのだろう。それならそうと、言ってくれれば・・・。要は唇を噛んだ。あれは口下手で不器用なアキラの精一杯の芝居だったのだ。
「いい友達をもったな。」
要の心を読むように、原田が言った。





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