Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


Fragment 断片(破片)シリーズ



過去の若き時を脚色して 好きなように解釈して
自らの素晴らしかった記憶を 自在に今に刻むのは老人の特権である



③ 西日暮里

今思い返してみると疑問だらけである
だって これまでの生涯の中で唯一野宿したのはあの時だけだったから

銀座で仕事を終え 終電を逃し 歩いて西日暮里まで帰った
何故か部屋に入れなかった
鍵なのか 状況なのか 全部忘れた
歳を経ての最大の恩恵はおそらく忘却であろう


ありがたいことに夏だった
駅とアパートの中間地点にその空き地はあった
バブルの最中であっても まだ東京の空間には土管が普通に転がっていた
根尽き果て その土管に潜り込んだ
時刻はおそらく午前3時過ぎ
寒かったけど 寒地の産まれなんで 本能的に生きれると感じられた


朝の陽が昇って目が覚めた
体は冷えていたがまだ生きている自分に戻れた

 
そこから歩いて数分の「餃子の王将 西日暮里店」を目指した
薄汚れた身なりになったが 誰もそれを気にしていない
食べた 幸い小金は持ち合わせていた 腹一杯食べた
餃子も唐揚げも野菜炒めもスープも 思う存分食べた


その夜の仕事中にすべて問題は片付けた
帰宅し 一日ぶりの布団はなんか湿っていたけど
まだここにいれるんだなっていう安心感ですぐに眠りに落ちた



もう一度書く
(土管の中とはいえ)野っぱらで寝たのはあの時だけだった
ホームレ、、、、
その不安さとやけっぱち振りは少しは分かるつもりだ





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