刻の流れー18
- カテゴリ:自作小説
- 2022/12/14 00:34:00
「おい要、お前小銭もっとうか?」
唐突にアキラが聞いた。
「?」
「おっ、アキラの風呂好きが始まった。」
環が混ぜっ返す。
「相変わらず、すきやなあ。」
とハルも同調する。
「何や、お前ら行きたないんか?」
アキラがムキになる。要は、訳がわからぬまましばらく3人のやり取りを聞いていたが、財布をごそごそすると、
「小銭はあまり持ってないなあ・・・」
と一万円札を一枚引っ張り出した。
アキラたちはそれを見ると、一瞬顔を見合わせて、どっと笑い出した。
「お前、風呂屋、行ったことないんか?」
要には、ますます訳がわからない。
「お前なぁ、マン札なんか持っていったら番台のおばちゃんに張り倒されるで。」
要は銭湯と言うものを知らない。入ったことはおろか、見たこともなかった。風呂はいつもジムのシャワーで済ませていたのだ。三人に笑われたことで、要はちょっと赤くなりながら口をとんがらせた。
「俺だって、風呂屋ぐらい・・・」
と強がってみせたが、それがよけいに笑いを誘うのだ。
そこへさっきのギャラリーたちがようやく追いついてきた。
「お、あかん、ほんなら、いくで。」
アキラはそう言って、ヘルメットをかぶった。バイクのエンジンをかけて早々に走りだす。要たち3人も慌ててそれを追いかけた。
今でこそ、各家庭に浴室があり、温泉はともかく、純粋な銭湯と言うのは珍しくなってしまったが、30年前の当時は、神戸市内でもあちこちに銭湯が見受けられた。アキラは長田の下町まで流してくると行きつけの銭湯へと3人をエスコートした。
銭湯の前には“ゆ”と染めぬいた藍染の大きな暖簾。入口の右側の曇りガラスの戸には男、左側には女と書かれている。下足にブーツを叩き込んだアキラたち3人が、男と書いた方へ入っていった。要も、とにかくここはアキラたちの真似をするしかないと、それに従った。先頭のアキラが左を向いて、誰かに何か言っている。
「おばちゃん、4人な、タオルも貸してや。」
「4人で、1080円や。お兄ちゃん、今日は早いねえ。」
番台の女将が陽気に答える。要が払おうとポケットに手を入れるのをアキラは片手を挙げて断った。
アキラに付いて、脱衣場に入ると、時間が早いせいか、客は少ない。初めて目にする銭湯に、要は物珍しそうに辺りを見回した。
女湯との仕切りに大きな鏡が張ってある。その下は番号を書いた扉のついた低い棚になっている。反対側にはもっと高い棚がある。上を見上げるとプロペラがゆっくりと回っているのが見えた。部屋の何箇所かに背の高い扇風機が置かれ、一角にはマッサージ椅子と飲み物の自販機があった。奥にはまたガラスの引き戸があって、そっちの方から、バシャーッ、カポーンと音が響いていた。
アキラがタオルをもってきて、要に一枚渡す。いつまでもきょろきょろあたりを見ている要を尻目に自分はさっさと棚の前で革のツナギを脱いでかごに放り込むと、引き戸を開けて浴室に入っていってしまった。環もハルもそれに続く。要は置いてきぼりを食わじと慌てて服を脱いでと3人を追いかけた。
ガラス戸の中に入ると、湯気の向こうに富士山を描いた壁があり、湯船に入っている男たちの頭が見える。要にとってはそれはどう見ても単にでっかい風呂だった。湯をかぶっていたアキラが、こっちだと手招きしている。アキラ達がかけ湯をするとさっさと湯船につかったのを見て要も湯船から桶で湯をすくいかけ湯をした。
「あつっ」
普段は真冬でも冷たいシャワーしか使った事の無い要だ。湯の熱さに思わず桶を落としそうになった。風呂屋の湯の温度は42度と決められており、特にさら湯は熱い。そんな時間帯に入ったのだから当然なのだが、これが、また、みんなの笑いを誘うのだった。
4人は大きな湯船に要を囲むようにして浸かりながら
「ええなあ、要。原田さんに直に教えてもろとうんや。原田さんてどんな人なん?」
環が聞く。
「そうだな 原田さんはポイントしか教えないな。あとは自分で試せって言われる。」
後の二人もふ~んと聞き入っている。
「なぁ コーナーの攻め方なんかどうよ?」
アキラが訊くと
「侵入するときのブレーキングとクリッピングポイントの取り方、後はアクセルワークかな。」
「そんなん、普通やん。」
大笑いになった。
要は数時間前に出会ったアキラたちが、気に入り始めていた。波長が合うのだ。初めて感じる感情、それが友情だと、要はまだ気付いていない。
昔お風呂が壊れた時と、大学時代、学校の近くにあった銭湯に
友人に誘われて行ったのを思い出しました。
やっぱりお風呂上りは牛乳飲んだのでした(#^^#)
私はコーヒー牛乳で、友達はフルーツ牛乳だった気がする~。
今は銭湯を利用する人が減ったせいか営業している所も少なくなってきているみたいで
ちょっと寂しいですね。