Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー4

ラ・パルフェ・タムールの朝は各自のトレーニングから始まる。
軽い朝食の後、ジムでのウォームアップが終わると、梶はスカッシュで汗を流す。原田は腹筋を鍛えた後ビル一階にあるガレージへ消えて行くのが常だ。
興津は一人残ってマットの上で柔軟体操をしている要を見ていた。どうやらこれで担当は決まったようだ。ここでは暗黙のうちに自然と流れができている。お互いの役割を熟知しているのだ。その中にこの少年を入れるのだから、子供といえどもそれなりの事をしてもらわなくてはならない。レベルが同じでないとチームワークが乱れる。それは危険な芽だ。最初にそれを摘み取るのを興津が引き受けたのだ。
「要、こっちだ。」
興津は少年をジムの一角に連れて行った。壁際の床に2メートルぐらいの梯子が何本か置いてある。
3人のうちで興津は最も基礎体力とバランス感覚に優れていた。要の年齢を考えると、手っ取り早く使えるようにするには自ずと訓練内容も決まってくる。確かにフットワークは良さそうだが、持久力はどうか。それを興津は試したかったのだ。興津は壁際の梯子を三本引っ張ってくるとそれを床に平行に並べた。そして、升の中に足を交互に入れて反復運動をするように見本を示した。それを見ていた要は1回目を簡単にクリアーした。飲み込みはいいようだ。
「もう一回。」
興津が言う。
それの繰り返しだった。始まって30分、要の足取りが徐々に重くなってきた。単純なことの繰り返しだが全身から汗が流れ、足が上がらなくなってきている。要が訴えるように興津を見る。
「もう一回。」
だが、興津はそれしか言わないのだ。
限界だ。筋肉が硬く重く、痛いというより、感覚がなくなってくる。それでも興津の指示に従い、上がらぬ足を引きずりながら梯子の上を汗だくで這いずり回る要だった。
「よし、休んでいいぞ。」
ようやく興津が言った。
要は仰向けにひっくり返ってゼーゼー喉を鳴らした。興津は近づいてくると陽気な笑顔で
「はは、やるじゃないか。」
そう言って、少年の汗でベトベトの髪をくしゃくしゃ撫で、最後にポンと叩くと、
「熱い体に冷たいシャワーは良いぞ。」
と、白いタオルを投げてよこす。
興津の言うとおり、冷たい水は少年の火照った身体を心地よく冷ましてくれる。
熱い以上に喉がカラカラだった要はしばらく口を開けて降り注ぐ水をガブガブと飲んだ。興津はニヤついた顔をして
「旨いだろう。もう少し大きくなったらもっとうまい水の飲み方を教えてやるさ。」
と言いながら、シャワーを浴びる少年の四肢を舐める様に観察していた。なるほど服を脱がすと子供とは言え、それなりに鍛えられているのが解る。むき出しの肩を掴んでみるとやはり予想通り骨が太い。
「要、いいかよく聞け。」
コックを絞って水を止めた興津は、要を自分の方へ向けた。
「お前の体は10年もすれば、かなり大きくなる。背が伸びるのはしようがないが、肥らないようにだけは気をつけろ。」
6歳の要には何のことを言われたのかもちろんわからないが、返事だけははっきりと
「はい。」
とした。
「じゃあ、次のカリキュラムといこうか?」
さっきの反復運動で足がかなりまいっている筈だ。弱音を吐くかな、と思いながら興津が言った。
「はい。」
要は手早く身体を拭きながら、元気に応えた。
興津はこの少年の素直さと頑張りが気に入ってきていた。できる限りは訓練してやりたいとさえ思うのだった。ただ、持って生まれたものはどうしようもない。いつかはその体格ゆえに興津の補佐を勤める事が出来なくなるだろう。その日のために、多方面に能力を付けるのは悪くない。
 午後は原田に任せよう。興津はそう思った

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2022/11/14 21:23
やはり骨は大事ですね。骨って生命力と関係あるって言ったりしますから
要くん逞しくなりそうですね。
運動後のシャワーや水を飲む描写が気持ち良さそうでした~。
私も冬場も運動がんばろう(^▽^)/
冬はボクササイズちっくな運動をする予定だったりします。
興津さんのお仕事は一体何なのか・・・
この男性たちが体を鍛えているのには何か目的があるのか?
どんどん先が読みたくなってきました。




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