終章 永遠のモラトリアム
- カテゴリ:自作小説
- 2022/11/11 21:01:08
東の彼女が死んだ(フィクション)
終章 永遠のモラトリアム
櫛の端が落ちるように 次第に周りの環境は変化していった
だって 時は流れているんだから
卒業 結婚 就職 海外 行方不明
僕は相変わらず何も決められない
何も決めたくはない
『煎兵衛さんは何をやっても生きていけるわよ!』
その頃に頂いたある方からのありがたいお言葉です
お言葉通り今でも生存しております
承認欲求はもともと無いほうだったと思いますが
この言葉は金科玉条の如く
剥がれ落ちかかっている金文字を繋ぎ留めています
でも 今はみんな おじいちゃん
でも 今はみんあ おばあちゃん
うん? 1/4 は既に存在してない?
そういえば我が部室でこんな面白話題が半世紀前に飛び出しました
「あたしたち年取ったらどんなの描いてるんだろうね」
「そりゃあ あれでしょうw」
「やっぱり?」
「言っちゃう?」←これは煎兵衛が役割により発声しました
「やっぱあれでしょw」
「そうだよねw」
「それしかないよねw」
「それでは一斉に! はい!」←これは煎兵衛が役割により発声しました
〈養老院に咲く恋の嵐!〉声が怖いくらい揃った
当時は老人の行き先は”養老院”という施設しかありませんでした
今とは違いました
要するにみんなシニカルであるがゆえ 少女漫画 いや 老婆漫画という
新しいw可能性を理解していました
時は過ぎていきます
そしてレディース・コミックなるものが出現しました
時は過ぎていきます
今はどんな際どいものがあるのかは 現役ファンを離れた身としては
語れる資格はありません
娘が夜遅く他の数人と一緒に連れてきた一人の男がズブ濡れだったので
母親は仕方なく 濡れていた下半身の衣服を乾かそうと考えた
パンツの洗濯は必須だった
パンツの当人は幸いなことに酔っぱらっていて記憶が無い
翌朝何事も無かったように 見知らぬ家で目覚めた僕は時計を見て
札幌に帰る時間を何故か湿っていた時刻表で調べていた
今考えてみればホントにごめんなさい
彼女(熊副部長の上の部長ね)が現れた
(多分 頬を赤らめないように苦心して)
「はい!乾きましたよ」
可愛らしい 丁度商品券が入るくらいの紙袋を渡された
一目その中を覗いた瞬間 昨夜の自らの蛮行が部分的にフラッシュバックした
挨拶もそこそこに退散し逃げ帰った(ちゃんと言えよ)
一緒にいた彼らの間でそれはその後に伝説となった
(だから”ぱふ”に載ったのですよ)
モラトリアム
それは何も決められない自分
それは何も決めたくない自分
だから魔法の呪文のように僕を捕えて離さない
年頃の娘を持つ母親がどんな気持ちで
見知らぬ男の石狩川の水を含んだパンツを洗ったのか
若かったというのはなんて無敵だったのか
あ そういえば彼女のお父様の記憶は(当然)ない
一晩お世話になりました ありがとうございました
本人同士でさえ危うい齢なので
御母堂も御尊父もひょっとしたらと 危惧しております
その節は礼を尽くして頂き 誠にありがとうございました
いや礼じゃないな 施しでしたね ありがたく頂戴いたしました
さて もう引退してるのかな
教職や諸委員会の要職での御活躍はネットで拝見できてました
もう一言や二言しか言えません
あんとき楽しかったね
滅茶苦茶楽しかったね
互いにそれぞれの漫研を背負い
今でいうサードパーティ(別の漫研)を共有しつつ
意見の対立もあったけど
直立したひまわりのように
真っ直ぐに空をあなたは見てたね
一目で頭が良いのが会話で解り 気持ち良かった
真っ直ぐな視線 よこしまな裏心が皆無な良家の一人娘
優しい声 明快な発言 でも許さないものは許さない
彼女は教職を選び 実際に いつペンを折ったのかは知らないが
同じ教育系の大学を卒え 教員になった
そこから彼女の歩みが始まり
そのころのわたしは東京辺りでフラフラしていた
もう語るまい
長きに渡って綴った二人の出会いと別れのぐだったお話はこの辺にしましょう
そして第1章に戻るんです
弥生系98%の人類の一つの到達点であった
爽やかだった 会う度に心が洗われた彼女が死んだ
東の彼女が死んだ
ごきげんよう
-完-
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- 我楽多煎兵衛
- 2022/11/12 20:50
- うん
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- 違反申告
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- ルルルのル^^
- 2022/11/12 19:55
- お疲れ様でした^^
-
- 違反申告