羨ましかった
- カテゴリ:恋愛
- 2022/08/06 15:22:18
「加持さんのこと、忘れた?」
「ううん。無理。それは一生かかっても無理なんじゃないかな。だけど、もう忘れないでいいかなって思ってる」
「え、どういうこと?」
「加持君のこと、いつまでも引きずるのは駄目だって思ってたの。でも、無理なんだ。無理だって、わかった。いいことも悪いことも、ずっと残ってるんだよね。だったら、それでいいのかなって気がしてきたの」
しばらく目が合ったままだったけれど、絵里の方が先に視線をはずした。
「加持さん、本当に死んじゃったんだね。もういないんだね」
「うん」
「すごく不思議な気がする」
「うん」
「お姉ちゃん、加持さんのこと大好きだったものね。わたし、羨ましかったよ。加持さんに会う前、お姉ちゃん、すごく念入りに顔の手入れとかしてたよね。あのころ、わたし、男にうつつを抜かすような女はバカだと思ってたから、お姉ちゃんのこともバカだと思ってた。だけど、本当は羨ましかったんだ」
ー 『流れ星が消えないうちに』 橋本紡 ー