Nicotto Town


人に優しく


羨ましかった


「加持さんのこと、忘れた?」

「ううん。無理。それは一生かかっても無理なんじゃないかな。だけど、もう忘れないでいいかなって思ってる」

「え、どういうこと?」

「加持君のこと、いつまでも引きずるのは駄目だって思ってたの。でも、無理なんだ。無理だって、わかった。いいことも悪いことも、ずっと残ってるんだよね。だったら、それでいいのかなって気がしてきたの」

しばらく目が合ったままだったけれど、絵里の方が先に視線をはずした。

「加持さん、本当に死んじゃったんだね。もういないんだね」

「うん」

「すごく不思議な気がする」

「うん」

「お姉ちゃん、加持さんのこと大好きだったものね。わたし、羨ましかったよ。加持さんに会う前、お姉ちゃん、すごく念入りに顔の手入れとかしてたよね。あのころ、わたし、男にうつつを抜かすような女はバカだと思ってたから、お姉ちゃんのこともバカだと思ってた。だけど、本当は羨ましかったんだ」





ー 『流れ星が消えないうちに』 橋本紡 ー




 




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