「彼女の香りに包まれて」

アメリカ合衆国の心理学者ポール・エクマンが、基本的な感情のリストを作った。

怒り・嫌悪・恐れ・幸福感・悲しみ・驚き・おもしろさ・軽蔑・満足・困惑・興奮

・罪悪感・功績に基づく自負心・安心・納得感・喜び・恥

この感情が表情に現れる。

彼女の顔の表情は感情と同化して変わっていく 。

同じ表情でいることはない。

彼女はよく話をする。 一度話し出すと止まらない。

時には一晩中話すこともある。

そんな時僕は、彼女の表情を見ながら黙って話を聞いている。

決まって話し終わると彼女は、泣き出す。

彼女の話している内容が、本当のことなのか嘘なのか妄想の世界の中の話なのか

僕には、区別がつかない。

どの話にも結論がない。

今話してることがいつのまにか煙のように消えて次の話に変わっていく。

繋がりがある時もあればまったく違う話に飛ぶこともある。

DJ が曲をつないで音楽を奏でるように彼女の話は、

飽きることはないが話してる内容を僕は覚えていることができない。

音楽と一緒で聞いてる間はとても心地が良い。

それは彼女の声がとても感情的で耳障りのいい僕の大好きな声だからかもしれない。

話しながらその話に合った歌を歌ったり時にはラップ調に話すこともある。

彼女は小さい時から本を読むのが大好きだったそうだ。

大好きというより本が友達だったと 言っていた。

彼女の頭の中にはいろんな物語や主人公の台詞、感情が詰め込まれているのだろう。

インプットしたものをアウトプットする相手が僕しかいない。

彼女は、そう言って微笑んだ。

僕は彼女に了解を得て彼女の話を録音することにした。

彼女の話のコレクションがたくさんできた。

しかし録音を聴く時間は僕にはなかった。

もしも僕の前から彼女が消えたらこの録音は僕の宝物になるだろう。