Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


鼻歌とあなたのメロディー





煎兵衛が4,5歳の頃だったろうか、いつものように活発な姉達は外に遊びに出ていて
台所には母と私しかいなかった
くにさん(爺ちゃん)は畑や鶏小屋で忙しかったし
お婆ちゃんは離れた部屋で寝ていた
父は地底何十メートルでヘッドランプを装着し黒いダイヤと向き合っていた


母は晩御飯の支度をしていた
私は傍で邪魔にならないようにうろついていた

ふと気付いた
音楽が聴こえる
家のラジオは沈黙している
あの時テレビはあったっけ?
窓外からはくにさんの鍬の音やたまに鶏の鳴き声が漏れ聞こえるだけ



音楽の正体は母の鼻歌だった
俎板の上で包丁を動かしながら
鍋に水を甕から注ぎ、プロパンガスの火にかけながら
室(むろ)から食材を取り出して洗う

その一連の作業の中で彼女は歌っていた
数年後に判明したが
それは歌ではなく鼻歌だった(鼻歌という言葉を知ったので)

なんの曲だったのか、そもそもテキトーだったのか
永遠に分からない謎が多い程、人生って豊かになるってもんだ





《あなたのメロディー》(NHK)

『あなたのメロディー』は、1963(昭和38)年から1985(昭和60)年まで、
22年間放送された音楽番組
アマチュアが作詞作曲した作品を、プロの歌手が歌うコンテスト形式で、
この番組から北島三郎の「与作」、トワ・エ・モアの「空よ」などのヒット曲も生まれた
番組は毎回5曲を紹介。この5曲から、スタジオの観客と4人の審査員によって
その日の“アンコール曲”を選ばれた

総合テレビ 日曜 午前10:00~10:40(1965~1968年度)
総合テレビ 日曜 午前10:00~10:35(1969年度)
総合テレビ 日曜 午前11:00~11:35(1970~1984年度)


当時、小学生になっていた私と母は何故かよくこの番組を一緒に観ていた
後半に選びだされる”アンコール曲”発表がこの番組のハイライトだ
いったいどの曲が選ばれるのだろうか?


母が言った「どれだと思う?」
それに私が躊躇なく答える「○●◎だと思う」
殆ど私は言い当てた

母は普段は人前では自分の意見を表に出さない
代わりに、夫にはぶつけまくる

今分かった。何故、突然小学4年生の末っ子が『ギター買って』と親に言い
翌月にはビニールケース付きのYAMAHA G-600 が北方の片田舎に届いたのかを



正直に言おう。母の鼻歌は滅茶苦茶だった。そもそもが作業の
辛さ、メンドくささを紛らすための補償行動だったんだろうな


だって、母は”アンコール曲”を当てられないばかりか
再演されたアンコール曲を『はあ、そうなの』と、特に感動していないようだった
《実は母はパンクだったというヲチは用意していない》
ただ息子にはある程度認識を新たにしたのだろう
安くはない(送料含めて8000円近い)ギター費用を捻出するのは結局母なのだから




正確な母の音楽の素養は分からない
私も結局は自己満足に終わってしまった
今となっては、日曜の午前10時、至福の時を共に過ごせたのは
本当に、本当に幸福だったんだと思う



《さあ!あなたの作った曲を日本全国に送りましょう!》

素敵な番組だった














数十年後に、イカ天ブームが巻き起こる

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2022/07/22 17:05
イカすバンド天国、、、懐かしい





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