おばかさん
- カテゴリ:家庭
- 2022/07/16 10:16:07
「リズ、気分が悪いよ」
「ほんとに、しょうがないわね!」
エリザベートは立ちあがったが、脚がしびれて、びっこを引いた。
「どうしてほしいの?」
「どうしてって……ぼくのそばにいてほしいんだ、ベッドのそばに」
ポールの目から涙があふれた。
幼い子供のように、唇をとがらせ、顔を涙と鼻水だらけにして泣いている。
エリザベートは自分のベッドを台所の扉の前に引っぱってきた。
弟のベッドとのあいだには椅子がひとつあるだけで、二人のベッドはほとんどくっついていた。
彼女はふたたびベッドに戻り、かわいそうな弟の手をさすった。
「まったく……」と姉はいった。
「おばかさんねえ。学校に行けないっていわれて泣くなんて。考えてもごらんなさい、あたしたち二人きりでこの部屋にこもって暮すのよ。白衣の看護婦をよこすって、お医者さんが約束してくれたわ。あたしはお菓子を買いに行くか、貸本屋に行くときにしか外出しないわ」
ー 『恐るべき子供たち』 ジャン・コクトー ー