二十年前に
- カテゴリ:仕事
- 2022/06/18 11:47:39
何分かして、黒い修道服を身にまとった、背の高い修道士が現れた。
彼はぼくを見てにこやかな笑顔になった。
額の広いその顔は、ほとんど白髪のない栗色の小さな巻き毛に縁取られており、同じように栗色の髭がペンダントのように垂れ下がっていた。
彼はどう見ても五十以上ではないだろうとぼくは推測した。
「わたしはジョエルといいます。あなたのメールにお答えしたのはわたしです」と、彼は言うと、有無を言わさずぼくの旅行カバンを持った。
「部屋までご案内します」
彼は背筋をしっかり伸ばし、ぼくのカバンは重いのに軽々と持ち、健康そのもののようだった。
「またあなたにお会いできてうれしく思います。もう二十年になりますか」
ぼくは、何も分からないという表情で彼を見つめなければならなかった。
彼はぼくにこう言った。
「二十年前にわたしたちのところにいらっしゃいましたね。その頃、ユイスマンスについてお書きになっていたでしょう」
それは本当のことだったが、ぼくは、彼が自分のことを覚えているのに驚愕していた。
ぼくの方は、彼の顔にはまったく見覚えがなかった。
ー 『服従』 ミシェル・ウエルベック ー