なにもいうなよ
- カテゴリ:恋愛
- 2022/06/11 13:36:40
あんたに話したいことがあるの、と佐知子がいった。
なんだ、と僕はいった。
「あんたがどう思ってもいいわ。本当は静雄は明日、この部屋をでるつもりだったのよ。それを今夜、あんたにいうつもりだったの」
「静雄がでて行くのはあいつの勝手だよ」
「聞いて。海できめたの」
「話さなくてもいいよ」
「でも、聞いて。あたしたち、一緒に暮すことにしたの」
「そうだと思っていたよ。前々からそんな気がしていた。静雄がでて行くのは、あいつが叔母さんのところから帰ってきてからでもいいさ。きっとうまくいく」
「うまくやるわ。あんたならそういってくれると思ったわ」
もっとなにかいいたそうだったので、もうなにもいうなよ、と僕は念を押した。
ありがとう、と佐知子はいった。
礼なんていわなくたっていいさ、と僕はいった。
ー 『きみの鳥はうたえる』 佐藤泰志 ー