Nicotto Town


人に優しく


なにもいうなよ


あんたに話したいことがあるの、と佐知子がいった。

なんだ、と僕はいった。

「あんたがどう思ってもいいわ。本当は静雄は明日、この部屋をでるつもりだったのよ。それを今夜、あんたにいうつもりだったの」

「静雄がでて行くのはあいつの勝手だよ」

「聞いて。海できめたの」

「話さなくてもいいよ」

「でも、聞いて。あたしたち、一緒に暮すことにしたの」

「そうだと思っていたよ。前々からそんな気がしていた。静雄がでて行くのは、あいつが叔母さんのところから帰ってきてからでもいいさ。きっとうまくいく」

「うまくやるわ。あんたならそういってくれると思ったわ」

もっとなにかいいたそうだったので、もうなにもいうなよ、と僕は念を押した。

ありがとう、と佐知子はいった。

礼なんていわなくたっていいさ、と僕はいった。





ー 『きみの鳥はうたえる』 佐藤泰志 ー




 




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