Nicotto Town


人に優しく


呼吸


小さな屋根裏部屋の窓を濡らして月光が差し込んでいた。

——兄さん。

いつかあなたの展覧会を開こう。

大きな美術館で、世界中からあなたの絵を見るために、たくさんの人が押し寄せるはずだ。

あなたの絵は、海を渡って、遠くまで旅をする。

きっと日本までも。

そうだ。

——あなたの絵は、日本でも紹介されて、数え切れないほど多くの人々が感銘を受けるんだ。

その日を一緒に迎えよう。

あなたと一緒に、僕はどこまでも行く。

僕たちは、いつまでも、どこまでも一緒だ。

約束だよ。

フィンセントの耳もとで、テオは、オランダ語でささやき続けた。

フィンセントは、ひとつ、うなずくと、——このまま死ねたら……いいな……。

そうつぶやいて、深く、ゆっくりと息を吸った。

それが、フィンセントの三十七年間の人生で最後の呼吸となった。





ー 『たゆたえども沈まず』 原田マハ ー




 




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