Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


箭兵衛は煎餅を食べていた




 ある昼下がり、火曜日かな?ドアフォーンが鳴った。
箭兵衛家のドアフォーンが鳴ったのは3年振りのようだ。
何だろう?マンションの理事長の次期役員勧誘かな?
新聞の売り込みかな?
昔追い払った旧妻<未述>が押し掛けてきたのか?
頭を掻いて、口周りを拭いながら、箭兵衛はドアモニターを見た。


 4インチの画面に(おそらく)一人の女性が写っていた。
頭から黒いスエットをかぶり、その表情は見えない。
「は~い」箭兵衛は面倒くさがりながら通話ボタンを押した。


 返事がない。不穏な雰囲気。『やべ?』ドアを開けてはいけない。
再度通話ボタンを押し、モニターを消し、居間に戻り、気配を消す。


 ドアが叩かれた。ドンドンと叩かれた。既に煎餅の味の感覚は消えていた。
何か叫んでいる。ドアの外で何か叫んでいる。何かが起きている。

 「愛子です!」



 書籍とCDとマスクの箱とPCとリモコンで溢れた部屋に愛子が招かれた。
「初めまして」上着を脱ぎながら、愛子は箭兵衛を見据えた。



 彼女の四肢は透明と言っていいほどだった。かけている眼鏡のおかげで
彼女の視線を捉えることはできたが、(多分)鬘のおかげで、彼女の脳を、
直視せずに済んだと思う。


 水色水玉ワンピースの薄着で、既に銀色の髪は腰まで伸びていて、
唯一人工物の眼鏡のおかげで互いのコミュニケーションは取れそうだ。

 「私の体を見て貰えますか?」

 こういうことニコットで書いていいのか?
突然BANされないのか?恐るおそる書いていこう。


 眼鏡をかけたままで、愛子は水色水玉ワンピースを脱いだ。
箭兵衛はキョトンとしていた。
愛子の全ての体内が晒された。
さっき飲んだばかりのラテは胃下部にまだ収まっていた。
そこから先の白色の物質は複雑に透明な小腸と大腸の中で
絡まり合い、繋がっていた。


 すぐさま箭兵衛は叫んだ!
「胃液と胆液と膵液はどうしたんだ?」
愛子は透明な指で透明な涙を拭い、足元のワンピースに手を伸ばした。
「歐先生のおかげです」



 愛子は自らの透明な姿を一つの水色のワンピースに収めた。
「今日、箭兵衛さんを訪れたのは、人類の進化についてなんです」


 煎餅で乾いた喉を潤すためのリボンナポリンを
冷蔵庫へ取りにいこうとした瞬間、愛子は言った。


 「透明化が直接エーテル体に繋がるのかは分かりません、
それが一つの道なのか、全くはずれているのか私には分かりません」





 今回はこれで終わる。
愛子は応接間(仏間)で眠りにつく。



 夜が更けても、それでも箭兵衛は居間で眠れないでいた。
全身を晒した愛子。あのとき何かが違うと思った。
おそらく子宮あたりだろう。何かが違う。
透明な愛子の体の中で、子宮の近辺に”色”があったように思う。
『一体何だろう?』たしか、ピンク色の徴。
あれこれ考えているうちに箭兵衛も深い眠りについた。

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2022/03/16 21:48
がんばれせんべい




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