Nicotto Town


人に優しく


一杯のチキン・スープ


「フラニー、きみに言うことが一つあるんだ。ぼくが本当に知ってることだ。逆上したりしちゃだめだぜ。べつに悪いことじゃないんだから。きみがもし信仰の生活を送りたいのならだな、きみは現にこの家で行われている宗教的な行為を、一つ残らず見すごしていることに今すぐ気づかなければだめだ。人が神に捧げられた一杯のチキン・スープを持って行ってやっても、きみにはそれを飲むというだけの明すらない。この精神病院にいる誰彼のところへべシーが持って行くチキン・スープは、すべてそういうスープなんだぜ。だからぼくに知らせてくれ、ぼくに知らせてくれよ、きみ。たとえきみが、『イエスの祈り』を正しく唱える方法を教えてくれる師匠——導師と言っても、信心家と言ってもいいが——それを求めて、全世界を探し歩く旅に出たにしても、それがきみに何のたしになるというのかね? 神に捧げられた一杯のチキン・スープが鼻先に置かれてもそれと気がつかないというのに、本物の信心家を一体どうやって識別するつもりなんだ? それを知らせてもらえないかな?」





ー 『フラニーとゾーイー』 ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー ー




 




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