Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


高之坂菜々 (たかのさか・なな)



 今もどこかに(多分)生存している女性ギタリスト(のはず)だ
年齢不詳、かつ面(顔)が詳細に割れて(知られて)いない
だから追いかけようも無く、調べようも無く、ナキウサギよりも実在性が無い
所詮、wikipediaは、覚悟を決めた存在からはフリーでいられるツールに過ぎない

 ところが、実は、現在日本に生きている人々の半数以上に、
彼女のギターフレーズは染み着いている
かって、多くの音楽番組がテレビ界に存在していた時に、
彼女は高名、かつ成功したバンドでリードを張り、
スカートを翻し、踊り廻っていた
21世紀を20年以上も過ぎた今となっても、その名曲の彼女のギター・フレーズは、
ある年代を経た日本人にとっては、既知の、というか、当たり前のものだ
誰が弾いたのかは知らぬままに

 その後、複数のバンドに加入し脱退を繰り返した
どこでも、どんな環境でも、彼女のフレーズは新しく前進し続けた
そう、あなたが知っているあの音だ
彼女がどんな想いでバンドを渡り歩いたのかは、今となっては全くわからない

 後年、イギリスに渡って、仕方なくユニオンに入り、
数年間ではあるが、あちらこちらの録音現場にその爪痕を残した

 その後アメリカに移って、どうやら肌に合わなかったらしく、
すぐに母国へと帰った

 こういうシチュエーション




 さて、
そんな謎に包まれている存在の女性が実は、あなたの(御婆ちゃん、お母さん、
叔母さん、お姉さん、妹、娘、ひょっとして今も連れ添ってくれる妻)
<男性ヴァージョン>だったり、

 さて、
そんな謎に包まれている存在の女性が実は、あなたの(御婆ちゃん、お母さん、
叔母さん、お姉さん、妹、娘、ひょっとして今も連れ添ってくれる夫)
<女性ヴァージョン>だったりする。


 押し入れの奥の、今まで見たことの無い片隅に、年季の入ったギターケースを
発見した時には、どうか、心して、あなたの覚悟を決めてください

 中を見るのも、見ないのも、あなたの自由です
そっと、押し入れの戸を閉めるのも自由です
ケースの中の使い込まれたヴィンテージ・レスポール
(あなたに視認できるでしょうか)を見たような気がして、
夕食後に中途半端な質問をして、数日間の無視の責めを受けるのも自由です
最悪は、ケース内のギターの上に、全て英語で書かれている書類があって、
そこに「-studio」とか「----ofice of *****(超有名バンド)」という、
文字が躍っていて、さすがに音楽に詳しくないあなたでも、
そこを察するのは自由です
「あのギターは何?」

 もはや、それを言葉に発するのは、自由とか我慢というものではなく、
お互いの存在理由の問い掛け合いになります

 今まで意固地になっていた女性は、結局その時が来たのを知ります
「少し、待っていてね」胸の鼓動数がほんの少し上がる
女性は押し入れの奥のギターケースを数十年振りに取り出します
ケースを開けた瞬間に漂うリバプールの煤けた香り
様々な風景、かって彼女が心細くも、それでも尊大に呼吸していた、
そんな時にいつも頭の中で流れていて、自分の新しい一歩を刻むべく、
未知のフレーズを追い求め、追い求め続けて、かっては追い続けて、
それで、今のざまだ

 何も後悔はしていない。国に帰ってそして優しい夫に出逢えた
子には恵まれなかったが、それでも平穏な日々を過ごせていた
何一つ不満はない。何もない。そういった日々が続いた


それでも、時折り夢を見る。
未知のフレーズが夢の中で跳ね返る。跳ねて、翻って、向かってきて、飛び出す
だが、翌朝には微かな余韻しか残っていない

その次の夢では、未知ではなく、既知のフレーズが世界を席巻していて、
その中心で、ただただ知らない誰かが音を発信するだけで
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 その時、突然




『あ』

『きた』

『未知がきた』

『これ良くない?』


 夢の中じゃない。夫にギターケースを見せようとしている途中で、
リバプールの記憶に刻印された香りの中、

『何?これ?』

 興奮と当惑の中で、女性はコード進行とピチカートとユニゾンを瞬時に受け止め、
己のたった一つの脳内で再構築をし始めた
ハーモニーと、リズムの入りは後で考えるとして、そもそも歌詞が入るのかは別問題だし

 その新しいフレーズが世に膾炙するかは、別のエピソードにできるかな
(なんか、こんなエンディング、前にもあった)

 NAONのYAONで後輩の寺田恵子に歌わせる手もあるぞ
あ、最近のエフェクター・デヴァイス全く知らないや
どうしよう
PS
 高之坂菜々は後期高齢者で、幸いなことに現在御存命である





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