Nicotto Town


人に優しく


やって来たよ


彼女はぎくっとした。

自分の目に映る彼の姿同様、彼の目には自分がひどく老け込んで見えていることが分かったからであり、そのことに耐えられるほどの愛が、自分と違って彼には残っていないと思ったからである。

祭りで初めて会ったときと同じく、彼のワイシャツは汗でぐしょぐしょだった。

そしてあの時と同じベルトを締め、銀の飾りのついた、同じ革の鞍袋を担いでいた。

バヤルド・サン・ロマンは、刺繍をしていたほかの女たちが呆気に取られているのもかまわず、一歩進み出ると、鞍袋をミシンの上に置いた。

「さてと」と彼は言った。

「やって来たよ」

彼は着替えの詰まった旅行カバンのほかに、もうひとつ同じものを持ってきていた。

それには彼女が彼に書き送った、二千通余りの手紙が詰まっていた。





ー 『予告された殺人の記録』 ガブリエル・ガルシア=マルケス ー




 




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