Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


日本(選挙)食堂


 年に1日か2日、時には1日も営業しない丼専門チェーン店がある。
営業のある日は朝7時開店、夜8時閉店だ。
期日前食堂という仮店舗が営業に先立って、何故か地域の役所内で細々と
立ち食いコーナーみたいに数日間だけオープンする。


 丼専門店なので、出てくる料理は丼しかない。
そのため滅多に開店しない貴重な料理のはずだが、すこぶる人気がない。
メニューの種類もそんなに多くない。そんな営業ぶりなのに、何故かつぶれない。
いや、実際は潰れかけているのかもしれないが。


 店の営業が終わると、店内にたくさんのアルバイト(なかには無償のひやかし)が
大挙してやってきて、その日購入された食券の集計作業をし始める。
どの丼が一番食べられたのかを厳正に数え上げるのだ。





 それではここで、メニューを紹介していきたい。



◎自民丼
器は一見立派だが、中身がショボい。醤油味だが量が少ない。その少なさを
大量の麩とか油かすで繕っている。
この食堂は多くの高齢者が来るために、目の弱くなった、あるいはメニューを
開いてなにか選ぼうという気力の無い人々のために、メニューの一番表紙に
バカでっかいフォントで『自民丼』を掲載している。
そのためなのか、丼のなかでは一番売れている。
定価600円、税込み660円。


◎公明丼
平和を大切にする愛にあふれたこの丼は、人々の健康を守るため、
極限まで塩気を抜いている。高血圧や成人病の遠因となる調味料や食材を一切使っていない。
塩気はおろか、甘味や旨味、香辛料、糖質、脂肪、
タンパク質、はまったく入っていない。ただ注力しているのが食物繊維だ。
普段、粗食暴飲暴食をされている人でも、この味のしない『公明丼』をひとたび食べれば
翌日の開通は約束されたようなものである。健康を守ろう。
定価600円、税込み660円。


◎立憲丼
まず見栄えが良くない。食欲を喚起させない。中に何がはいっているかまるでわからない。
勇気を奮って箸で丼の中を覗いてみる。食材に対して適切な表現ではないが、
玉石混交のカオスぶりが一目で見て取れる。
そもそもこの丼作りに対する気概が感じとれない。
味のほうは比較的いける。だが、栄養のほどは信用できない。
食後の満腹感もない。
定価600円、税込み時価


◎維新丼
ステーキ丼になっている。肉肉しい美味しそうなタレがいっぱいかかっている。
ヤングミドル世代でまあまあ成功している方々は大抵この丼をオーダーする。
大阪方面のテレビでよく宣伝されているタレなので、それは条件反射的なのだろう。
他丼に比べて割高だが、食後にはカジノ券がもれなくついてくる。
さて、使っている肉は一体なんの肉なのか、記載はない。知らない方がいいのかもしれない。
小鉢で鳥肉のささ身サラダも一緒に付いてくる。鳥の名は「うそ」
定価1000円、税込み時価、カジノ一日優待券付き


◎国民丼
基本、玉木子かけご飯丼である。四角い器の真ん中で二つの黄身が睨んでいる。
風が吹けばそれに乗り、流れに逢えばそのまま流れていき、
なかなか注文した人の元まで配膳されないので、別名『風来丼』と呼ばれている。
玉子かけご飯が不味いわけはないので、一定の人気はあるが、栄養の偏りが危惧される。
近年、メニューから『国民丼』が外されるのではないかという声があるが、
実は誰も気にしていない。
定価300円、税込み360円


◎共産丼
超硬いスジ肉と時期を過ぎたフキノトウとオカラと志位椎茸を貧乏くさい調味料で
和えたガチガチ派の肉野菜丼。不慣れな入れ歯を極限まで噛みしめてなんとか
呑み込んでいる老人たちの姿が涙を誘う。
各地の日本食堂では、オーダー数が極めて正確に事前にわかるので、
食品ロスはゼロに近い。
時々、食事中に客は排除される。
定価600円、税込み630円


◎社民丼
絶滅危惧種丼。かっては自民丼と売り上げを競ったが(当時は社会丼)、食堂のホールや厨房で
マドンナと呼ばれた店員達が闊歩していた際、男性店員からの懐柔や反対闘争で、
次第にオーダー数が減り、今となっては注文する人は稀である。
稀なので、どんな丼なのか実は誰も知らなくなった。
ただ、もしオーダーする機会があれば、
料理とともに付いてくる、若き頃の女性弁護士の雄姿を捉えたブロマイドは大切にしてほしい。
定価100円、税込み105円


◎立花丼
正式な料理の名称はメニューの書き換えの手間が煩雑なので、
『立花丼』に固定された。意外とオーダーはそこそこある。
丼の味にはこだわっていない、『ワン・イシュー丼』なので、
メニュー欄に掲載されているのが第一義の丼なのである。
若いお客さんの中には興味本位でオーダーするひともいるが、
何故か拡がらないのはその味のせいなのだろうか。
定価600円、税込み600円



◎その他丼
諸派、無所属を支持する方々が注文する丼である。
果たして食べ物たりえるのか、或いはこの上もなく美味なのか、
夢は広がる。
味の主張は広範囲にわたるので、一言では言い尽くせないが、
未来の萌芽のおひたしはとても気になる。
定価不定、税込み未定



◎メロリン丼
まだオーダー数は少ないが、体に塗ると妖しく光るサラダ油で覆われているため、
保温性が高く、クセが強い。基本は炊き出し丼で食材は安価だが万人に提供されるべく、本来の味付けはノーマルである。ノーマルゆえに添加物やお飾りは廃し、
低所得者には嬉しい丼だ。ただ、メロリン丼を食べていると、
たまに維新丼の客から何故か訴えられることがあるので注意が必要だ。
その際にはこう対処しよう。
「いいか、もう訴えるなよ、絶対訴えるなよ、絶対だぞ」
定価無料、税込み無料

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2022/02/08 07:17
なるほど、と思わされました。
・嫌でもどれかを注文しないといけない
・どれを注文してもさほど変わらない
という点も似ているかもしれませんねw




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