Nicotto Town



南の魔女クレア107


クレアが作った魔玉と邪悪を斬る剣はドラゴンの想像以上の出来でした。
其れをひと月足らずで作ったのです。
しかもクレアは木の家で自分で料理をして良いと解るとしっかりした夕食を作ってお昼のお弁当も作ってアクレに毎日パンと牛乳を持って来て貰って牛乳を毎日飲んで焼き立てのふかふかパンを食べて更に取り立て野菜と果物を混ぜて絞ったジュースを飲んで搾りかすはシチューに入れてと料理のレシピ本を読んで毎日メニューを変えた料理をうきうきと作って城の外側の掃除も束子とほうきのすす払いだけでは気に入らない所は城の石や枠を使って上に登って行ける所は登ってやって高い所は塔の上にロープを結び付けて其れを自分の体に結び付けて下に直撃で落ちないようにすると其のロープと足で壁を支えてロープを伝って目的の場所まで降りて掃除をすると言う徹底ぶりで城を見る目が次第に鋭くなってきて、
ドラゴンはクレアは戦士とか勇者とか魔法使いとか言う形で職業を選ぶとした間違いなく職人を選ぶだろうとおもってみて居ました。

確かに薬草を使った回復薬を作る時も微妙な火加減や其れ以外に毒を消す薬草を神官達に習ってきたのを書いたノートを見ては作って更に其れに浄化の魔力を入れて作ったりと其れが魔女の仕事だけが魔女の仕事だとするならば其れは十分にこなすだろう。魔石を取って来なければ此処まで魔力が強くなくても十分にあの木の家で十分に南の魔女としてやって行けたし魔石を取って来る前の魔力で火の玉をぶつけたり水の精を操ってバケツの水をかなりの強さでぶつける位の事は出来ただろうし更に其れを相手の顔にとどめて窒息死させる位は闘える魔女になったとドラゴンは思いました。

だが今ドラゴンの目の前に居るのは此れまでにない魔力の力を持った魔女でしかも本人の自覚が無く更に其れを制御する事も出来なければ操る事も理解できてないのです。
持って生まれた血が負けず嫌いのコツコツと地に這ってでも少しずつ前に進んで行く職人気質があるのだろう。
一挙に人前で出ると言うのよりは努力して確実に妥協せずに地位や名誉よりも自分が納得いくものを作りたいと言う気持ちの方が強いのだろう。
地位や名誉に興味など無く好奇心がわいて心が躍るのは細工された物を見た時のクレアの目でした。

所がクレアは城の外観には少し悔しそうですがドラゴンに完璧を求めてもきりが無く更にもしかして自分の魔力を使って理想的な外観を作れるかもしれないと魔力の様な物が心の中でうずうずと使って欲しいと言って来ている気がするが其れはしないと言いました。
今のクレアに取って此の未熟な出来損ないが現実なら其れを受け入れる事にしたと言いました。
完璧をもとめる職人気質でも無いのです。

ドラゴンは其の言葉に驚きました。馬鹿では無いが無謀でも無い。しかも自分の魔力の可能性に気付きつつある。理想や権力や綺麗ごとのまやかしを否定して現実の粗悪や雑や粗末を受け入れると言う。
自分を卑下して見下している心があるとドラゴンは見抜きました。「どうせ自分は・・・。」と言うのに取りつかれると其れは伸びしろを消してしまう。魔石の為に大きな魔力が付いたが無謀な事にあえて挑戦する意欲が無いのだ。
其れまで見て来た魔女の若さゆえの過ちを犯さないが自分を見据えた目は冷たく自分を卑下している。
生まれついた運命で卑下しているのではない。天然と思われる油断を持っている。其れなりの環境で育った我儘も持っている。なのに愛をあきらめている。人の情を拒否している。

ドラゴンは自分をまず受け入れる事より先に「自分が一番嫌いなオレンジ」と言う名を付けて寄り添われる情を拒否したがドラゴンに怯えもしないし傍にいる事を拒否もしないで「寄り添う事」を拒否し最初から自分を受け入れる物は少ないが若さゆえに傷つき閉ざされた心がある訳でもないが
クレアの心の葛藤の奥の中に自分を入れない様にしているのだと思いました。

次にクレアは塔の中の清掃にかかると言う。一番の上の屋根裏部屋は束子と箒で埃を取る事と其の誇りをドラゴンに外に吹き飛ばさせました。

螺旋階段を下りて次の下の部屋になると使えそうな家具は下の階にドラゴンに運ばせて残りは壊して外に運ばせました。
壁と天井と床の苔と湿気によるカビはドラゴンに燃やさせて其の煤は外に噴出させました。
其れから束子と箒で綺麗に磨いて元の石の状態にしました。

其れからクレアは木の家から使えそうなぬいぐるみを大量に持ってきて細かな掃除の仕上げを掃除専門のぬいぐるみを使ってモップで仕上げをした。

次に幾つかのぬいぐるみを持ってモゾリアナ国に行くと所謂館を作る工務店に通い始めました。
大工や職人たちは奇妙なぬいぐるみを持ってドラゴンを連れた粗末な服をきた女がにらみつけて自分達を見てじっとしているのを不審者がいると受け取ったがドラゴンが怖くて追い払う事も出来ないのであちこちに出没する其の女の噂は評判になりました。

ドラゴンは何故魔法で家の中の改装をしないのかと聞きました。
最初はドラゴンは出来上がった豪華な館を参考に見に行くのかと思ったがクレアは違った其の出来る過程と材料を知りたがったのです。

ドラゴンは何故魔法で気に入った内装を作らないのかとききました。
クレアはあっさりと其れなら面白くない料理を魔法で出して食べても美味しくないと言い自分で海に潜って怖い思いをして手に入れたお金でレストランで食事をするのはよりおいしいと言い其れよりも自分で其の料理を作って食べた方がもっとおいしい様な気がする。多分他の人は専門の料理人が作った料理をおいしいと言うのだろうけど自分で工夫して作った料理の味は本人にとって別物なのだとクレアは言いました。
魔法使いや強いドラゴンには味わう事が出来ない喜びの感情を一度体験すると其れはとても素敵な宝物になるのだとクレアはドラゴンに言いました。

あのボルアートの館で薪を売ったお金で香辛料や材料をかってダルシャと昔の料理長が書いた古いレシピを見ながらくふうして作った料理の味は一生味わく事が出来ないあの時だけの味だろうとクレアは思うのだ。そしてあの時の味はクレアの宝物になったのです。

幸せとか夢とか欲とかはそんな中から出て来たささやかな物でも十分な時が在り其れさえも二度と得ようと思う事が出来ない現実を突きつけられるのです。
人はこうやって心を削られて行く。何かを奪い取られて行く。無力と現実を突きつけられて行く。其れに強力な魔力を与えられたとクレアはこの頃感じているのでした。
此の世の総てを消してやろうと思う絶望感よりもクレアには其れ以上に得ていた宝物があり過ぎる。
其の一つがダルシャと作った料理の味なのだ。

あの病院でアクレの母親が私に言った「あの時は心配したんだよ」と言ってクレアの方に伸ばしてくれた細い腕なのだ。
抱き合って泣くには二人とも余りにも頼りないか弱いか細い力と体が其れでも二人で人前も構わず子供の様に泣きじゃくった。
声を出して泣く事が必要な時が在ると言う事を知った事も絶望の中の宝物なのだ。
か細い頼りない腕を掴み合う事も其の細く弱いささやかなぬくもりでさえ宝物なのだ。

其れを図体がでかく強く空を飛べて火も吹けて負けた事の無いドラゴンには解って貰おうとも思わないとクレアは思ったのでした。





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