【無題】 第7回
- カテゴリ:自作小説
- 2022/01/10 21:59:26
一通りの装置の全貌を読み解いた僕はソファーに身を預け天井を仰ぐ。
疲れがどっと押し寄せるけど、やはりそれ以上に満足感と興奮に酔っている自分がいた。
やがて階段を駆け上がる聞きなれた足音にシシルが来たんだと書斎の入り口に視線を向ける。
「ラス! 部屋にも居なかったしまさかと思ったけど、もしかして一晩中かかったの?」
「うん、ちょうど今読み終わったところだよ、疲れた~」
「何も食べてないでしょ、朝食作ってきたら食べて」
「ああ、ありがとう、頂くよ、終わったと思ったら急にお腹が空いてきた」
「そう、終わったんだ」
そう言いながらシシルはソファーに座る僕の目の前のテーブルに食事の乗ったトレイを置いた。
野菜の入ったスープからは温かそうな湯気が立ち上っている。
「また新しく作ったの?」
いつもと違う食器を見た僕がそう訊ねると、シシルは得意げに「うん」とうなずいた。
これはシシルの趣味で、彼女はドイルさんの加工場から端材の木を持ち帰っては食器とか色々加工して遊んでいる。
年々その腕は上手くなり、今ではドイルさんの店に商品として並べるほどだ。
ドイルさんとシシル、親子揃って木材バカだ。
前に一度だけ目隠ししたままで木材を手で触って、その感触だけで何の木か言い当てたことがあって、木材バカを通り越して変態だとさえ思えた。
金属や陶器の食器が一般的には主流なのに、僕の家族はそんなシシルの作った食器をいつも使っている。
木は木で素朴な温かみがあって、それで食べる食事はとても美味しく感じられるからだ。
シシルの作った朝食を食べていると。
「フフフ」
シシルが嬉しそうに微笑んでいた。
そんなに自分の作った食器を使われるのが嬉しいのだろうか。
そんな僕の感情が伝わったのか。
「ラスも自分が作った魔導具が誰かに使われて役に立ってるところを想像してみるといいよ」
そんなこと一度も考えたこと無かった。
「ほら、顔がにやけてるよラス」
「え、ホント?」
「うん、わかりやすいねラスは」
自分ではよくわからないな、でも悪い気はしなかった。
そんないつもと変わらない穏やかな時間が流れる中で僕は食事を済ませた。
「それで、何かわかったの?」
「魔導回路が何なのかはわかったけど、肝心のところはダメだった」
「どういうこと?」
「これ見てよ」
僕は紙束の中から一枚の魔方陣を取り出してシシルに見せた。
「私にこんなの見せられてもサッパリわかんないよ」
「ほら、ここの部分が黒く塗りつぶされてるだろ?
ここが一番大事で、ここには座標が書かれているはずなんだけど、僕がわからないようにわざと消してあるんだ」
「つまり?」
「父さんと母さんが行った場所がわからない」
「結局昨日と状況は何も変わってないってことなのね」
「いや、そうでもないよ。
あの研究所の空間が消失した理由はわかったから。
この魔導回路は簡単に言うと転移装置だ」
「転移装置?」
「もっと簡単に言うと行きたい場所に行ける装置だ」
「でもその場所がわかんないんじゃ昨日と一緒じゃないの」
「まあ、そうなんだけど、……ふあ~」
食べる物を食べたら一気に眠気が襲ってきた。
「眠いの?」
「うん、疲れたから寝ることにするよ」
「わかった」
シシルはそう短く言うと僕の隣にドサっと座って頭を引き寄せた。
ゴホンとわざとらしく咳払いするシシル。
「ねえ、これは」
「膝枕だよ」
「いや、そうじゃなくてシシルは学校に行かないと」
「いいよ、私も休むし、それにね、これは監視なの」
「え?」
「先走ったラスが無茶しないための監視、私ね、赤松一等材は使いたくないの」
それは端的に言えば僕が両親を追いかけて、何処かに行ってしまうかも知れないから監視する。
ということらしい。
だいたいいつも素っ頓狂な行動を起こすのはシシルのほうじゃないか。
僕はいつだって理知的に行動しているつもりだ。
本能のままに動くシシルと一緒にしないでほしい。
「とにかく疲れたでしょ、いいからラスはしっかりと寝なさい」
「うん、眠いしそうするよ」
逆らっても無駄なので大人しく眠ることにした。
頭に伝わるシシルの膝の感触はとても柔らかくて温かくて、そしてなによりも安心できた。
なにか頭を撫でられているような気もしたけど僕はすぐに眠りに落ちた。
ううう
6話投稿しようとしたらまた3000文字超えてるし
中途半端に7話に分けるはめになった
相変わらず話の続きが気になる進め方(#^.^#)
主人公のご両親には人類の明るい未来が見えているような手紙の書き方でそこが気になったよ^^
原木ヒロイン、シシルちゃんの物騒なご活躍もますます楽しみ。
本格的な内容にびっくりΣ(・□・;)
私がシシルでも、絶対にラスを見張ると思うw
急にいなくなられたらたまったもんじゃないもん。
ラスとシシルは両親の後を追うのかしら!?
↓ え?!おにいちゃんの仕事柄? あ!木こりさんなの? へいへいほ~へいへいほ~♬
もしやおにいちゃんは目隠しで木材当てたり出来るのか!?と。
木材の匂いもある程度ヒントになりそうだよね。