Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


椎子の話



  「そもそも男の子って弱いから」




瑛子は窓の外の街中の光景を見据えながら私達に言った。
そこでは年末の最後の買い物に繰り出している人々が、
喧騒の街を行き来していた。

「結局、その面倒を見せられるのは私達女の子、その時は多分オバサンになっているけどね」


瑛子を好きだった。同性でも惹かれた。今でもその想いは変わらない。細い瞳、
真っすぐで黒い髪、そして何よりも体現している姿勢の清燈さは魅力的だった。
高校の制服をそつなくこなし、ルージュはリップクリームでも仄かな赤で、爪はニュートラルだった。


  瑛子がオバサンになった様子は私には想像できない。
  その時私は生きていないかもしれない。そしてそれは幸福なのかもしれない。
  

4人の女子高校三年生が繁華街にあるお洒落な店で席を囲んでいる。
そして瑛子が遂に私を見据えて言った。
「椎子はどう思う?」


私はひるんだ。『私の気持ちを知っているの?』
そう、瑛子は常に正しかった。
想いを吐露しそうになったが、逡巡しながらもなんとか隠しきった。
 何か言おうとした隙をついて。  


 「弱い男の子でもいいじゃない」
  愛子がすぐに助け舟をだしてくれた。
  すぐさま慶子もあわてて叫んだ。
 「弱い男の子大好きなんですけど!」



   瑛子はその瞬間自らの間違いを悟ったのかもしれない。
   あえなくその窓際の席で自らを閉じ込めた。
   私はすぐさま、瑛子を抱きしめたかった。
   そして今抱きしめている。
   一生、一生、貴女を抱きしめてあげる。 
   大好き。一生大好き。
   貴女を大好きなこの気持ちを私はこの時まぎれもなく確信したのよ。



   男性の染色体が明らかに(女性と比べて)劣っているのは
   X,Y,染色体のそもそもの情報量にある。
   女性がXXに対して、男性はXYというヘテロ状態にある。
   X染色体に比して、Y染色体の存在感は卑小ともいうべき表現が適切だ。
   男性は、女性に対して生命体として劣っている事実が
      生命学的に確認かつ証明されている。   
  (寿命、出生時、小児期における罹患率、死亡率、
コミュニケーション能力、factor.Y)


   愛子と慶子が心配そうに瑛子を見つめている。
   瑛子は、現実に戻りつつあった、
   かろうじて果されている呼吸活動の中で、
   私の体温を受け止めてくれていた。
   椎子が守ってくれている。その温度がダイレクトに伝わってきている。
   


   私は瑛子が大好きだった。
   「私もそう思う」
   瑛子の頬に少し赤みが帰ってきた。
   瑛子の冒頭の問いにやっと答えることができた私は
   優しく瑛子の髪を撫でながら、静かに同意した。

   「そもそも男の子って弱いよね」

                         -暗転-




  登場人物


  瑛子
  椎子  (今回の主人公)
  愛子
  慶子


  状況

  一人の男子高校生が校舎から飛び降り自殺した事件から半年後の年末のある店舗での会話





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