どうして返さなくてはならない
- カテゴリ:学校
- 2021/12/24 20:53:20
マルティンはボーッとお金を見つめていた。
それから首を振った。
「いいえ、ダメです、先生」
道理さんは紙幣をマルティンの上着のポケットに押しこんだ。
「おとなしく言うことを聞くんだ、わからず屋め」
「でも、ぼく、五マルクもっています」とマルティンが小声で言った。
「ご両親にプレゼントをしたくないのかな」
「したいです。とても。でも……」
「ならば、いいじゃないか」
マルティンは絞り出すような声で言った。
「とても、とてもうれしいです、先生。でも、ぼくの両親が、いつになったらお金を返せるか、ぼくにはわからないのです。父は失業しています。復活祭に、ぼく、家庭教師できるような新入生が見つかるといいのですが。それからでもいいですか?」
「すぐにでもその口に蓋をしてくれないか」
ベク先生が厳しい声で言った。
「クリスマスイヴに旅費をプレゼントした。どうして返さなくてはならないのだね。それがどうなるというんだね!」
ー 『飛ぶ教室』 エーリヒ・ケストナー ー