南の魔女クレア60
- カテゴリ:自作小説
- 2021/12/18 21:54:42
クレアもだいぶ自分の仕事に心の余裕が持てる様になってきました。
最初の頃は男の人が怖くて漢方屋さんのマドレさんの顔を見ずにうつむいて「魔女の回復薬です。」とドアをノックして傍の扉を開けたすぐそばの机の上に置くとうつむいたままお金を貰うと其のまま踵を返す様に外に出てロバの荷車に走って戻っていたのですが次第に顔を上げる様になり一言二言口を利く様になりました。
最初は天候の話をすると其れに虚ろな目で相槌を打つだけだっだのですが挨拶をする様になり今はマドレさんの家の周りの薬草に興味を持ったのかマドレさんが薬草の手入れをしながら薬草を積んでいると色々な質問をして来る様になりました。マドレさんはクレアに何があったのかは聞きませんが恐らく大変な経験をしたのは多くの事情を抱えた患者を診て来たので察する事はできました。その為にマドレさんからは声をかけずにクレアが質問をしてきたらそれに丁寧に答える様にしていました。
最近は顔色もよく元気になって来たのを期にマドレさんはクレアを家の横の木のテーブルでお茶を飲んで行かないかと言ってみました。其れは薬草の一つで心が落ち着く薬草の入ったお茶でした。勿論「聖水が一滴入ったお茶」程の効果はありませんが其れでも心が少しホッとする効果があるお茶です。クレアは其れを御馳走になる事にしました。確かに心がホッとするようなほんわかする気がします。
それからクレアと薬草について少し会話をしました。熱を下げる薬草、傷を消毒する薬草など病院の医者の様な事は出来ませんが此の国には病院に行けない貧しい患者が大勢いるので出来るだけ力になってやれる事が出来るのならと此の仕事をしているのだそうで其の中で「魔女の回復薬」は自分の手に負えない患者さんが来た時にとても役に立つそうです。とりあえず医者に連れて行く間だけでも其れを飲まして此の港町の丘を登った所にお金持ちの大きなお屋敷があって其の周辺にお金持ちの人が住んでいる一帯があって其処に小さな病院とお医者様がいるそうで其処では大病院とまでは言わなくても小さな手術が出来るそうで其処へ運ぶまでの命を繋ぐ役目で此の港町の所謂下町と呼ばれている人達の命綱なのだそうです。クレアはとても大切な仕事をしているのだよと言われて少しはにかみながら微笑みました。
そんな風に言ってくれる人は今までいなかったからでした。
其れから其のお金持ちの人達が住んでいる道へ行く方向の反対側の北側の道を上がって行くと今度は酒場どおりがあって港町の荒くれたちがお酒を飲んだり女を買ったりする場所があってクレアは其処をよけて一本下の細い通りをロバの荷馬車が何とか通れる裏道を通ると其処に一軒のお酒も置いている店があります。
其処でもクレアの持ってくる「魔女の回復薬」を売って来るのです。此処は今の魔女のシンバが道に迷って荒くれどもが居るとおりに迷い込んだ時に此処のマスターが助けてくれたと言う何故かシンバの前の魔女の知り合いのお店で此処のマスターは訳ありで病院へ行けないが命に係わる外科的手術が必要な客に「魔女の回復薬」で傷を治してやっているので荒くれたちも此処のマスターには頭が上がらないようです。
どういう付き合いが始まってシンバも其の前の魔女も此の店に「魔女の回復薬」を売っているのかは解りませんがシンバの話によると今の前のマスターがシンバの前の魔女の男だったと言う噂を聞いたことがあると港のお喋り女に言われた事があったけど其の真意は解らないそうです。
魔女もそれぞれ色々な生き方や人生を経験してきた人が居るので多くを詮索しないのがルールだそうです。
クレアは此処のココアを気に入ってこの頃はゆっくりとココアを御馳走になって味わって帰って来る事が出来る様になりました。
マスターは何も言わずに何時も「魔女の回復薬」を受け取るとお金を渡してそれから黙ってメニュを渡してくれてクレアは何時も小さな声で「ココア」とだけ言うとカウンターの一番奥の目立たない席に座ってココアを飲むと黙ってお店を出てロバの荷馬車に乗るとかえって来ました。
この頃はやっと帰り道の夕焼けに染まったラベンターの花畑を楽しむ余裕も出来ました。
そんなある日クレアは漢方屋のマドレさんから冬の雪で荷馬車が通れなくて薬を売りに来れなくなった時の間に此れまで病院へ運んだが間に合わなくて死んだ人が毎年数人出る事を知らされました。小さくても港町ですので荷揚げの時の事故は日常茶飯事で更に冬になると波が荒くなって事故が起きやすいのだそうです。
勿論人々は急いで丘の上の病院に運ぶのですが付く前にほとんどの人が死んでいるのだそうです。
冬とは厳しい物だと冬の厳しさをマドレさんは言ったつもりでした。勿論長い間どの魔女もロバの荷馬車で雪道は通れないので「魔女の回復薬」が来たことが無いのは承知してます。
更に此の小さな港町は湾岸工事もきちんとできてない漁村に少し小さな港を作って小型の船がつける程度に整備しただけなので船をきちんとつける事が出来ないので荷揚げや荷下ろしが危険なのだそうです。
其れでも此れだけでも此の町にとって漁村から隣の国の野菜が都会に運べたり果物が売れたりすることで大いに潤っているそうです。
クレアはクレアの農場が此処の人達を助けている事を聞いてとてもうれしい気持ちになりました。
こうやってマドレさんと話している内にクレアにも少しずつ人と接する事が今はマドレさんだけですけど出来る様になりました。
其れはクレアにとってとっても大きな一歩の様に思えました。
クレアはロバにまたがって「魔女の回復薬」だけでもカバンに入れて運べないと思ってロバに鞍を付けようとしました。
ロバは其れを嫌がってクレアを蹴飛ばそうとして暴れたので諦めました。
此れまでの魔女たちが出来なかった事がクレアに出来るわけがありません。クレアは諦める事にしました。
此処では色々な妖精たちと其々の年代の魔女がお気に入りの人形を自分の知っている人のイメージで動く様に変えたのが働いています。
どの人形たちともクレアは人間では無いと言う安心感から信頼して仲良くなれて話が出来ました。
時々例の赤いオオカミが様子を見に来てくれました。
パンを運んで来るアクレとはパンをうけとるときには果樹園の仕事をしているのでクレアと話をするはなくなりましたが
クレアがロバの荷馬車に果物を運んでいる時にチラッと後姿を見た時が在りましたが肩を下げて寂しそうに帰って行く姿に見えて少し引っかかるものがありました。
でも今のクレアの心の中に誰かの事を心配出来る余裕はありませんでした。
今は与えられた仕事をゆっくりとで良いのでやって行くという事が大事だとシンバが言うのでクレアも其れ以外の事は考えない様にしようとしました。
積み荷の果物を数を間違えずに乗せれたのかとか「魔女の回復薬」の瓶を割れない様に乗せれたのかとか言う仕事を上手にこなす事だけを考えると心に言い聞かせて他の事は考えない様にしました。