星をみてた
- カテゴリ:家庭
- 2021/12/18 08:37:51
夫に背負われて林をでた。
広い背中からミコへ、少しずつ温もりを分け与えながら正太郎が坂道を上り始める。
坂を上りきったところで、つと正太郎が立ち止まった。
「ミコ、あんなところでお前、なにしてた」
静かな問いだった。
「星——」
「星がどうかしたか」
「星をみてた——」
正太郎は「そうか」と言って再び歩き始めた。
傷めた右脚を庇いながらゆっくりゆっくり坂を下る。
ミコもひと揺れごとに眠りに吸い込まれてゆく。
なだらかな下り坂を転ばぬよう歩む正太郎も、昨日より少し優しくなっている。
ー 『ホテルローヤル』 桜木紫乃 ー