【第17話】青空の行方~ゆくえ~
- カテゴリ:自作小説
- 2021/12/03 21:04:52
「チークタイムって?健全な青少年たる高校生が…なんてふしだらなことをっ!」
「先生、そうゆーのふっるい言葉で『ヤボ』って言うんですよ」
一平は、完璧に皆から避けられて、壁の花になっている槇原先生に声を掛け、ラストのチークのお相手をリクエストしたところだった。
「健全な高校生だからこそ、その心の中の想いを相手にぶつけたくなる…ってのが、分かってもらえませんか?先生…」
にっこり笑って手を差し伸べる一平。
もじもじとした風情の槇原先生。
そしてその2人を、遠くから複雑な表情を浮かべて見やる「一平親衛隊」の委員長とギャル女子たち。
「涼クン…?私と踊って大丈夫なの…?」
伏し目がちで、しかし涼のとなりに寄りそうのは楓。
「うん… いいけどね。でもまぁ、俺チークなんてどうやったらいいか知らないし、そっちこそ俺でいいのかい?」
やや所在なさげに肩を竦める涼に、楓ははっとした表情を浮かべて
「あの…もしかして、涼クン…?」
「何かな?」
「先生と一平クンのこと気にしてたりする?」
がくっ… とずっこけるように膝から崩れ落ちた涼は思わず普段のクールさを忘れたようで、
「あ、あほなこと言いなやっ…」
「涼クンって関西出身だったのね。知らなかったよ…」
思い思いのカップルが誕生し、小休止の時間、そしてこれから訪れる濃密な時間を心待ちにしているのかしていないのか。
そして、会場の中心で並んで最後のチークタイムを待っていたのは、拓海と結衣の二人だった。
「ねぇ、本当にチークの相手は私でいいの?」
結衣は悪戯っぽく微笑んでそう拓海に話しかける。
「あ?うんいいさ。てかお前こそ俺でいいのか?」
苦笑した表情を浮かべて拓海が結衣に答えたその時だった。
「拓海… 最後の曲は、私と踊ってよ…」
背後から小さな、でもはっきりとした声が聞こえた。
「あ、沙也加…?」
驚いたように振り返る拓海、そして唇をきゅっと噛み締めたまま同じように振り返る結衣の前に、頬を赤く染めて、足を踏ん張って立つ沙也加がいた。
「えっと…ど、どうしてさ?」
「だからっ… あたしは拓海と踊りたいのっ!」
意を決したようにそう告げた沙也加の声は、自分で思ったよりかなり大きく会場中に響いた。
「でも…」
隣をちらっと見やる拓海は、やれやれといった表情を浮かべる結衣の姿が。
「やっと言えたわね… もう、これ以上待たされたら、あたしがほんとに拓海のこと好きになっちゃうとこだったよ!」
笑ってはくるり、と体を翻した結衣は、沙也加の背中を押して拓海の隣に押しやると
「沙也加が拓海のことを…ってのはなーんとなくわかってたんだ。気づいてないのはきっと当の本人の拓海だけだろうなってね。だから、沙也加が一歩踏み出すようにってさ、一平と打ち合わせてわざとあたし、拓海とくっついたりしてたのよぉ!」
「な、なんだそれっ!」
目を丸くする拓海にウインクした結衣は
「まあいろいろ複雑なことは考えないでいいからさっ 最後は沙也加と踊りなよ」
「あ…でも結衣は?誰と踊るの?」
思わぬ展開について行けない沙也加がそう訊ねる。
「ふふ 昨日からキャンプ飯だ 肝だめしだ ダンスパーティーだって…ちょっと疲れたんでさあ、あとは沙也加に任せるわ。ちょっと休憩~~」
そう言い残すと、結衣は二人を残してスタスタとベンチの方に歩き去って行った。
「あ…」
「ん…」
「沙也加?」
「な、なによっ」
「こないだのこと、ごめんな…」
「こないだって…?」
「俺らしくもない、声荒げただろ?悪かったな…」
「ううん、いいのよ。許したげるわ。そのかわり…」
拓海は何を要求されるのか、と沙也加の顔を見つめていく。
「あたしと、きっちり踊ってよね。途中でやめたりなんてしたら許さないからさっ」
ラストの曲が流れ始める。スローなナンバーがゆったりとリズムを刻み始めた。
(続く
みんなの苦労が無駄になるところだったわ~!
さあ、拓海君はこれから沙也加ちゃんをどう見ていくのか?
続きは年内にお願いね(^^♪