南の魔女クレア7
- カテゴリ:自作小説
- 2021/11/05 22:32:19
クレアの足音が小さくなって行った。
途端にウィル兄さまが大声で笑い始めると同時にお父様もピェールお兄様も笑い始めた。
お母様だけが「笑っちゃ可哀そうよ」と言ってうつむいていた。
3人は必死で笑いをこらえたが今度はお母さまがクックックとこらえきれずに笑い出すと男3人はまた笑い出した。
最後はお母さまは余りに笑いすぎて涙を出していた。
執事長のガゼルも笑いを堪えるのに必死だったとメイド長に話していたそうだ。
セリスに其の話を聞いてクレアは眉間にしわを寄せて怒ったが次の日にお母様に呼ばれて本当のレディやどんなにイライラしても食器をカチャカチャさせて物に当たらないでどんな時でも何事も無い様にふるまうのだと教えられた。
大人のレディとはそう言う物だそうだ。
其の後クレアは静かにみんなとの夕食を取る様になった。
何せ大人のレディとはどんな時も取り乱したりしない物なのだからだ。
其れから1年経ってクレアの庭仕事の為の袖もスカートもすっぽり隠れるエプロンドレスも小さくなったので新しいサイズのをまた数枚作って貰う事にした。
今度はクレアは童話の本に出ていた挿絵のお姫様のスカートに付いていたフリルを裾に付けて貰ラう事にした。
其の為に其の挿絵の付いた本をもって使用人用の階段を下りて半地下にある縫子さんの部屋に其れを見せに行く事にした。
セリスに聞いた場所に縫子さん専用の半地下の上の方に窓がいっぱいある明るい部屋があってミシンのカタカタと言う音がした。
其れもセリスに聞いていた通りだった。
部屋に入ってセリスは初めてミシンを見た。
そして縫子さんが布をどんどん動かしてメイド用のエプロンが出来上がって行くのをクレアはしばらく唖然として其の光景を見ていた。
まるで魔法の様にメイド用エプロンの周りにフリルが縫い付けられて行っていた。
クレアに気が付いて縫子さんは手を止めた。
「お嬢様、何か御用でございますか?」「しばらく見ていていい?」とクレアはすかさず言った。
「私はかまいませんよ。仕事を続けて良いですか?」「ええ、其れを見て居たいの」
此れが運命の出会いだった。
此の館には大勢の使用人の為にエプロンや衣類のかぎ裂きを直す縫子を雇っていた。
使用人の部屋のカーテンも作れば使用人用の食事テーブルのクロスも作った。
勿論エプロンや料理人の前掛けも作るのである。
其れ以外にも取れたボタンをなおしたり衣類のほつれも直したりもした。
殆ど毎日小一時間はミシンを動かさなければならない仕事があった。
其れ以外に手が空いている時はそれぞれに付いているお付きのメイドの要望に応えてテーラーさんを態々呼ぶほどでもないズボンの長さを変えたりスカートのすそを変えたり、特にクレアが食べ物をこぼして付けたシミを隠すためにリボンを付けたりポケットを付けたりしたりと布に関する仕事もしたが其れ以外にメイド長が言う雑用をするときもあった。
今は古くヨレヨレになったメイド用のエプロンを数枚破棄して新しいのを補充する仕事をしていたのだ。
次から次と魔法の様に出来上がっていくメイド用エプロンをしばらくおとなしく見ていたクレアだったが遂に我慢が出来ずに自分もミシンをやってみたいと言い出した。
一度だけと言う約束で布の切れ端を使って直線縫いをクレアは体験した。
其れから殆ど毎日クレアは小一時間はこの部屋に忍び込んでボタン付けやかぎ裂きを直す様子を見ていた。
そして時々ミシンを使わせてもらった。
直線縫いから縫子さんが書いた緩い曲線の所の縫い方も布を上手に動かしながらのミシンの扱い方もやってみた。
次第にクレアは自分が作って欲しかった新しいエプロンドレスを自分で縫ってみたくなった。
縫子さんの名前はエレーヌと言った。
其の頃にはクレアは縫子のエレーヌさんがバスタ地方にある「服縫専門学校」を出ている事を教えて貰った。
モニリスと其の学校に付いて調べると其の学校は2年制の学校で入学試験があった。
多くの学生は其の実技試験を受けるためにどこかの洋服製法屋に見習い縫子として3か月から半年間宿舎に泊まりながら無料で働いて実技試験科目の直線縫いや曲線縫い、其れと簡単なポケットの付け方を身に付けた。
入学中は午後の2時まで授業を受けて学校の近くにある製法工場に働いて授業料を稼ぎながら通う子が多かった。
地元で無い子は寄宿舎に入っていて其の寄宿舎の寮費は夕食が終わった後の2時間、製法工場で働いて寮費を出す子がいるので領の門限は女子の学校なのに夜の10時になっていた。
其れとは別枠に実技試験と筆記試験を同じように受けて働ないで学校に通う生徒もいる事もモニリスが其の学校に通っいて製法屋で働いている知人から聞いて来た。
主に男爵の令嬢やお金持ちの商人の娘で陰口で「貴族枠」と呼ばれていて寮の部屋も一人部屋だそうで多額の寄付と高い月謝を払って入学するのだそうだ。
其の理由は近くにウィルお兄様やピェールお兄様が通った士官学校があって其処の学生と知り合いになって仲良くなるとパーティに招待されるだけでなく結婚相手も探せると言う理由らしかった。
子女は高貴な貴族令嬢が通うトウニにある女学院に通うか師範学校、看護学校にいく子も居るし一度も学校に通わないで家庭教師だけで終わる良家の子女も居た。
お母様はクレアを自分がかよってトウニにある女学院に入れるつもりなのはずっとお父様に言ってあった。
だがクレアは其の服縫専門学校に行きたいと思った。
最近はお母さまは女性が年齢から来るご病気とは違って本当に年齢から来るからだが弱って体調が悪くベットでお過ごしになる事が多くもうクレアとモニリスがお茶に呼ばれる事も無く夕食にも降りて来なくてベットで食事をする事が多くなった。
良くてお起きになってクレアの庭が見える場所の広い窓の傍で庭を見ながら食事をすると言う状態だった。
とてもクレアがお母様が望む女学院に行かずバスタ地方にある服縫専門学校に行きたいと言える状態にない事はクレアにも解っていた。
でも学校は12歳からである。
入学試験まで其れ程時間があるとは思えない。
クレアは思い切ってお母様に服縫専門学校に行きたいと言ってみた。
勿論毅然と反対された。其れはお母さまにはあり得ない事だった。
モニリスも呼びつけられてきつく叱れてしまった。
そしてモニリスの責任でクレアを説得するようにと命じられた。
モニリスはクレアの気持ちが解るので辛いがクレアをあきらめさせるより仕方なかった。
クレアもモニリスも泣きながら二人は説得をしようとして其れに応じようとしていた其の可哀そうな様子がセリスによって使用人達に広まった。
其の二人の姿は可哀そうで見てられなかったそうだ。
やがて其れがウィルの耳に入りお父様の知る事となった。
お父様はクレアがやりたいという事をやらせてあげたいと言う気持ちもあった。
其処でお父様がお母様に其れを相談してくれたがにべもなく断られた。
其れをしったクレアはもう一度お母様の説得に行った。
貴族の子女が多く通っていて其の理由が近くにウィルお兄様やピェールお兄様が通っていた士官学校が近くあり将来のお婿さん探しが目的で態々其の学校に通う子がいる事を言った時に初めてお母様の心が少し動いた。
ウィルが呼ばれて其れは本当の事かと聞かれた。
確かに其れは事実で両校は本当に目と鼻の先でジルドに引けの取らない立派なレストランが在ったり高級なホテルが在ってどちらかの家が主催のパーティが開かれてどちらかが其れに呼ばれる事が在ったりすると言った。