Nicotto Town


人に優しく


乳母


キップは乳母を愛し、乳母もそれを知っていた。

だが、キップが乳母に慰めを返したのは一度しかない。

それは、乳母の母親が死んだとき。

キップは乳母の部屋に忍び込み、急に年老いたその体を抱きしめた。

小さな召使い部屋で嘆く乳母に、横になって黙って寄り添った。

乳母は激しく、だが作法にのっとって泣いた。

顔に小さなガラスのコップを当て、流れる涙をそこに集めていた。

それは葬式にもっていく涙。

キップは、丸くうずくまる女の後ろに立ち、九歳の小さな手で肩に触れた。





ー 『イギリス人の患者』 マイケル・オンダーチェ ー




 




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