【第15話】青空の行方~ゆくえ~
- カテゴリ:自作小説
- 2021/10/22 00:12:11
「なぁ… うじうじ考えてたってどうしようもないだろ…?」
一平は少しだけ肩をそびやかして、そしてキャンプファイヤーの焚き火を見据えて、ぼそっとそう呟いた。
ダンスシークエンス。
クラスの男女は、思い思いの相手を誘い、誘われ、そしてしっとりとカップルになっていく。
若作りした槇原先生は、戸惑う涼を相手に、リズム狂ったようなダンスを踊っている。
壁の花と化した楓は、涼の方を見ないようにしているのが手に取るようにわかる。
「そうだな… 分かってはいるんだけどな…」
拓海は楓の方を見やりつつ、傷ついたようにまた目線逸らす。
「まぁお前がさ…楓を気になってるなんて、この鈍感な俺でもわかったくらいだからなぁ…」
苦笑しては、端っこの芝生エリアに座って突っ伏す拓海。
「なぁ。俺思うんだけどさ」
「なんだ…?」
「お前さ、本当に楓のことが好きならさ…」
一平は拓海の隣に座り込んだ。夜露に湿った芝が、ジーンズを濡らすことなんて気にかけちゃいない。
「うん…」
何だろう。拓海は自分の心が、今までになく素直になっているのが分かった。
「楓の幸せ…ていうかさ。楓が笑って、楽しそうにして欲しいってかさ そう思わないのか?拓海…?」
はっとした表情になり、顔をあげた拓海に、視線合わさないように一平は続ける。
「お前が楓のことを…なんていうか…まぁ そうゆー感情を抱いてるってことはだ、彼女も多分気づいてると思う」
「え…?え…?」
拓海は慌てて顔を上げる。
「お前分かりやすいからな」
「わかりやすいなんて言うなよっ」
「あはは…まぁもう言わないさ。でもな」
「ん?」
一平は、キャンプファイヤーから離れて、隅で立ちつくす楓の方を顎でしゃくって示しては
「お前の気持ちに何んとなく気が付いていて、それでも、楓があんなに…寂しそうにしてるのをお前は…見過ごすってのかい?」
拓海はやや驚いたように一平を見上げると
「どういうことだ…?」
「お前が彼女を好きならさ… あんな悲しい、寂しい思いをさせたままでいさせて、それでいいのかって言ってるんだよ…?」
「う…」
そうだ。楓は涼に心惹かれてる…そうじゃないかってさっきからずっと考えが行ったり来たりしている。
拓海は、その答えが分かっているからこそ、どうすればいいのかっていう部分で足踏みしているのだろう。
「だったら…分かってるよな? 拓海、お前ができることは一つだけだろ?」
一平は笑顔になって、拓海の背中をどやしつける。
「わかったよ。仕方ないな…行って来るさ」
今までそんなに親しく会話したわけでもない。女子にモテモテの一平に言われて、ちょっとは反発する気持ちが溢れてくるわけでもない。
不思議な感情だった。
「おい涼」
「はあはあ…なんだ?拓海」
「こらっ ワシとこいつのダンスに水差すんじゃないっ!」
しかし拓海は槇原先生の抗議に耳も貸さず。
「いいからいけよ… 天塚、お前に誘われるの待ってるんだぞ?分かるだろ?」
拓海は、軋む自分の感情を押し殺すように、わざと明るく振る舞ってそう告げる。
「天塚さんが…?なわけないっしょ?」
涼は槇原先生とのダンスを一時休止し立ち止まる。
「お前はあほか?それとも、女心を弄ぶカサノバか?」
「はぁ?」
やや怒気を含んだ表情になった涼。そう、拓海はこうなるのを期待して涼を挑発していたんだ。
「いいから楓を誘って踊れよ。槇原先生は俺が引き受けたからさ」
「え?なんで…?」
「い い か ら 楓 と お、 ど、 れっ!」
「乙 拓海…」
一平に声かけられて我に返った拓海は、終盤に迫ったキャンプファイヤーの辺りを見やって。
「あ…」
「そうそう ようやったぞー…」
そこには頬を赤らめて、涼と踊る楓の姿があった。
そして頬っぺた膨らまして拗ねる槇原先生が視界の隅にあったのは内緒だ。
「これでいいんだよな?一平…」
「そそ よくやったよ、拓海…」
苦笑しては、立ち上がった一平は
「俺はコテージに戻るさ。ホントお疲れ、拓海…」
頭上の空は、まるで真昼と見まがうばかりに、月明かりとファイヤーの火焔で明るく晴れている。
楓の踊る姿を観たくない一心で、拓海は膝を抱えて、座ったまま顔を埋めて。
恋心が、胸いっぱいに膨らみ、そして壊れていく。その成り行きを16歳の傷つきやすい心が崩れていく。
そんな校外合宿、最後の夜だった。
(続く
拓海くんもちょっぴり大人の男になりましたかね?(*'ω'*)
けーすけさん、続き待ってるからね~