【第10話】青空の行方~ゆくえ~
- カテゴリ:日記
- 2021/09/06 22:47:09
「しかし…青春の1ページ、しかもど真ん中の俺たち…」
「うん…」
「合宿の夜に肝試しなんて、最高のシチュエーションだよな」
「うん…」
「今まで素直になれなかった男女2人…それがこの肝試しというイベントで一気に距離が縮まってさ」
「うん…」
「で、お決まりの、闇に潜んで待ち構えた、脇役に脅かされてな…」
「うん…」
「で、思わず抱きついた女子、受け止める男子… ここから始まる、2人の物語…なんてありがちだろ?」
「うん…」
「でさ、なんでこんなおあつらえ向きの夜に、俺たちは…」
「私たちは…」
「クジで負けて、脅かし役になってるんだろうなっ!」
コテージから100mほど離れた茂みにしゃがんで、合宿実行委員から手渡されたおばけの白い衣装とザンバラ髪のカツラを着けた姿は、拓海と結衣だった。
「ほんとね、でも拓海ってマジウケるんだけど、クジ運弱いねー」
拓海の隣で同じようにしゃがんで隠れている結衣がくすくす笑う。
「結衣だってクジ負けたじゃねーか。そうゆーのなんていうか知ってるか?目くそ鼻くそを笑うって言うんだよ!」
悔しまぎれにそう呟く拓海。
あわよくば…楓とペアになれればよかったのにって思いを隠しながらだ。
「あはは そうだね!でもいいじゃない。仕方ないから頑張って脅かそうよっ!」
目をなくして笑うその表情は、意外に魅力的ではあるのだが、拓海はそれに気が付かないでいた。
「だからさっ ね!切り替えて頑張ろうよ! 案外拓海って、お化け役に向いてるんじゃないかなあ…」
悪戯っぽく笑っては結衣は小声で。
「おいおい!言いがかりはよせっ!」
思わず声が大きくなる拓海を左手で制した結衣は、右の人差し指を唇に押し当てて
「来たよっ だから静かにっ!」
「す すまん… で、最初は誰と誰だ?」
最初に来たのは、辰衛健人と中宮由紀菜のペアだということが、彼らが手にしたカンテラの明かりで分かった。
本棟で動画編集の楽しみの時間を奪われた健人は、ちょっと不機嫌そう。しかし肝試し実行委員会(そんなのあるのか?)の由紀菜はニコニコ笑顔だ。
「健人くぅん… 由紀菜コワいよ…ちゃんと手、繋いでてねっ」
「わかってるよもう… てか、中宮くっつきすぎだぞ!恥ずかしいから離れてくれよ!」
「いや~ん…だって…怖いんだもの…」
全然怖そうじゃない。
「ねぇ…拓海?由紀菜ってなんだかあざとい感じがしない?あんだけ可愛いから、その時分の可愛さを知ってるって言うかさ…」
結衣が小声で、近づいてくる二人の感想を漏らす。
「そうか?あざといなんて思わないけどな…」
「あーあ…やっぱり男子って、ああいう自己演出が得意な女子に弱いんだね…拓海もそうなんだって分かっちゃったよ」
「なんでだよ!」
「しっ! もうすぐ来るから、静かにしてて!」
窘められ、首を竦める拓海だった。
「しかしまさかの、中宮があんなに怖がるなんてなあ…」
一目散に、目的地の石段の下まで猛スピードで走り去っていく2人を呆然と見送る拓海。
「バカね拓海… あれも由紀菜の計算だよ?」
「あの怖がって、健人に抱きついてってとこもか?」
はぁ、とため息ついて結衣は、
「き ま っ て る じ ゃ な い!!あの手の女は、身近にいる男子をたぶらかすことが目的なんだからっ!それだけだよ!」
「結衣… お前… なんか言い方キツイんじゃね?」
「ぇ まさかあ…拓海ってああいう女子がタイプなの?」
拓海は慌てて
「ちっ 違う違う!」
「じゃあ…どんな女の子が好きなのかな…?」
結衣は両手を背中で組んで、小首傾げて拓海を上目遣いに見上げる。
その姿は、普段ならかなり魅力的なのだろうが、何しろ今はお化けの白衣とザンバラカツラ姿。なので、かなり残念ではあった。
「え…俺は…」
言い淀んで言葉が消えていく。拓海は結衣の視線から逃れるようにコテージの方を向いた。
夜風がざわざわと木立の間を通り抜ける。かすかに開いた目のような細い三日月が雲間から顔を出し、周囲をほのかに照らし始める。
「まあいっか… んっ つぎはっ!」
2人が茂みの後ろに隠れた途端、コテージから歩いてくるペアの足音が聞こえた。
「…あ…」
それは、お互い言葉もなく、ソーシャルディスタンスを保ったまま歩いてくる、由宮涼と天塚楓だった。
固まる拓海。そして、その彼をじっと見つめる結衣。その表情はノンシャランで、拓海はその意味を読み取れずにいた。
「そっか…」
「ん?なに?」
結衣は拓海に向かって首を数回振って、少しだけ笑って
「ううん 何でもないよ、さ…もちょっと近寄ったら脅かそうね!」
その時だった。
涼と楓の前を、一陣の風が吹き抜けたんだ。
(続く
ノンシャランって言葉初めて知りました。
一つ賢くなりましたw
で、わざと、怖がるんだね(´艸`*)
結衣ちゃん、頑張れ~!(君も多少あざといけど・・)
楓ちゃん・・また犬?