おれだけのひみつ
- カテゴリ:恋愛
- 2021/08/14 13:16:50
「どこが気持ち悪かったかね」
「おまえの気持ち悪いとこ? 百億個くらいあるでー」
「うん。どこ」
「百億個? いちから教えてほしいか? それとも紙に書いて表作るか?」
「いちから教えてほしい。気持ち悪いんじゃろ。どこが」
「どこがって、そりゃあ」
「うん」
笑っていた坊主頭の顔面が、ふいに固く引き締まった。
それであみ子は自分の真剣が、向かい合う相手にちゃんと伝わったことを知った。
あらためて、目を見て言った。
「教えてほしい」
坊主頭はあみ子から目をそらさなかった。
少しの沈黙のあと、ようやく「そりゃ」と口を開いた。
そして固く引き締まったままの顔で、こう続けた。
「そりゃ、おれだけのひみつじゃ」
引き締まっているのに目だけ泳いだ。
だからあみ子は言葉をさがした。
その目に向かってなんでもよかった。
やさしくしたいと強く思った。
ー 『こちらあみ子』 今村夏子 ー