唇
- カテゴリ:恋愛
- 2021/07/31 14:08:12
何かを愬えるように、直美はぼくを見ている。
ぼくはベッドの縁に手をついて、ビニールに顔を近づけた。
ぼくの身体の動きにつれて、直美の目が動いた。
その直美の目を見つめたまま、ぼくは息をつめて黙り込んでいた。
「あなたはいつも、黙り込んでいるのね」
直美の目が語っていた。
ぼくは小さく、うなずいてみせた。
表情は動かなかったが、直美の目が、かすかに笑ったような気がした。
と、不意に、まるでスローモーションみたいに、直美の唇が動き始めた。
あ・な・た・が・す・き
ー 『いちご同盟』 三田誠広 ー