【第14話】黄昏のソロキャン
- カテゴリ:自作小説
- 2021/07/15 23:42:25
「よーし、青年っ!タープは完了だっ!カマドのほうはどうだ?」
「クマさん…だから名前で呼んで下さいって言ってるでしょう?石積んで、隙間を土で埋めたから大丈夫、完成ですよ!」
「天塚クン?今夜はしずか特製のアヒージョだよ!キノコとエビって、大丈夫だよね?」
「はい、食べられますよ… てかキャンプ飯の達人ですね?しずかさんは」
「先輩っ! 豚バラ肉の包み焼きってどうやって作るんですか?」
「沙也加…生肉をそのままアルミホイルで包むんじゃないっ!まずは塩入れたお湯で茹でるんだよっ」
俺たちソロキャン4人衆は、初夏の午後の陽射しが差し込む黄昏坂キャンプ場でワイワイ騒ぎながら夕食の準備を進めていたんだ。
そこに神田さんがいないのは、やはり仕方ない…てか、でもやっぱり寂しいんだけどさ。
俺は石を積んで作ったカマドに炭を入れ、ライターで火を熾した。(備長炭なんでめっちゃ時間がかかったのは内緒だ)
あの嵐の夜。
それから俺は神田さんにメッセージすら送ってない。てか送る勇気がなかったんだ…てのが本当のとこなんだろうけど。
あの夜の出来事。
誰か、ほかの男性に抱かれた神田さんの姿が脳裏から離れないんだ。
「先輩っ!何たそがれちゃってるんですか?なんぼここが”黄昏坂”だって言っても、だめですよ楽しくやらないとっ!」
沙也加が俺の隣にしゃがみ、鍋でボイルした豚バラブロック肉を見せてくる。これでいいんでしょ?って言いたげな目線で俺を笑いながら睨むんだよね…
クマさんが器用に串打ちした焼き鳥をバットに入れて運んでくる。
「青年っ! 今夜はタレ焼きじゃなく塩焼きだ!俺のとっておき、秘伝のスパイスでな!」
クマさんの調味料は確かに旨い。ベテランキャンパーならではなんだろうな…
炭火で蒸し焼きした豚バラ包み焼き、焼き鳥、アヒージョ、そして俺が作ったカレーライス…ご飯はサ〇ウのパックご飯だけど、夕焼けがキレイなキャンプ場ではそれも最高なんだよ。
そう 全部最高のセッティングなんだけど。
「かんぱいっ!」
沙也加は未成年なのでノンアルビール。しずかさんはプ〇モルビール、クマさんは…もう串打ちの途中からハイボールをでっかいプラコップでグイグイ言ってた様子でさ。
「ねぇねぇ 天塚クン、美女が2人もいるのに、なんでそんなに心ここにあらずって顔してんの?」
アルコールに酔ったのか、頬を赤く染めたしずかさんが右隣でにじり寄るように俺の顔を見上げて笑う。
「そうですよっ!こんな私みたいな、いたいけな美少女まで傍にいるのになんでですかっ!」
左隣にはいつの間にか沙也加がいて、同じように俺の方を見上げてくる。
「なんでだっ!俺の隣は空いてるのに、誰も来ないんだ?」
クマさんが吠えるように叫んで、コップの中身を一気に空けたんだよね…。
知ってる。
3人が示し合わせて、俺を励ますために初夏の黄昏坂のキャンプを計画してくれたのは…。
俺は肩にかけたタオルで、蒸し暑さからくる汗を拭っては苦笑するしかなかったんだ。
こんなに愛すべき仲間たちが励ましてくれるのに、やっぱり心は重く沈んでいるんだって気付いたんだ、ちょっと情けないなって。
洛陽が山々の合間からゆっくり沈む。ふわっとした風が、生暖かく頬を撫で過ぎていき、薄暮の高原を早足で流れていく。
俺は、こんなにいい人たちと知り合えて、幸せなんだろうなって心の底から思うんだ。
でもさ、やっぱり、心の奥、底が抜けたような感情は紛らわせられないんだ。
ごめん、クマさん しずかさん 沙也加… って心の中で謝り倒していてね…。
「ごめんねー 今夜もクマさんの後処理頼んじゃってさ」
しずかさんがペコっと頭下げて、何本目かの缶ビールのプルトップを開ける音がした。
「いいんですよ。沙也加が介抱してくれてますから… でもクマさん今夜も酔いつぶれですよね、しずかさんも大変ですよねいつも…」
しずかさんはちょっと目をなくして笑って、テントの中でクマさんをぺんぺんと叩いてる沙也加をチラ見しては、
「大丈夫よ。てかさ…天塚クンこそ大丈夫なの?」
「あ… はい。なんとか…」
「うそだね」
バレバレでしたか?
「神田さんのこと…ちゃんと、はっきりさせたの?」
「あ、いえ…最近連絡取ってなくて…」
俺は頭を掻き、炭の残り火に視線を移したんだ。
「そっか… で、天塚クンは、それでいいの?今のままでさ?」
しずかさんは缶ビールをひと口飲んで、近くに落ちていた枝で炭火をつついていく。火の粉が一瞬舞い上がる。
「でもいまさらですよね…」
「そんなことないっ!」
ぇ?
「そんなことないってば!ちゃんとはっきりさせなきゃだめだよ…でないと…」
「でないと…?」
俺は、しずかさんを見た。
いつになく真剣な彼女の、やや目じりが下がった、それでいて美しい表情が見えた。
「ううん、何でもない」
なんだそれっ!
俺たちの会話が途切れたその時だった。
「先輩っ!! 電話ですよ電話っ!」
沙也加が、テントで充電していた俺のスマホを手にして駆け寄ってきたのさ。
(続く
とうとう電話が来ましたね!
まさか、母上じゃあないですよね?w
けーす毛さんも、実際にソロキャンでは、作ってるのね!!
電話~~~~電話に出んわなんてことのないように(ΦωΦ)
次で大団円かな?楽しみにしてますね